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残酷な現実
†
いい加減にしろ、ベイジル・マーロウ。昨日、スターリーに捨てられたばかりじゃないか。それなのに性懲りもなくまだ抱かれたがっているなんて!!
またしても同じ過ちを繰り返そうとしていたベイジルは自分の愚かしさに腹を立てた。
ほんの少し口づけられただけで簡単にその気になってしまった自分はどれほど穢らわしく、どれほど浅ましいのか。ベイジルは醜い本性をまざまざと思い知らされる。
……悔しい。
オメガとは、これほどまで性欲にまみれた愚かな生き物なのか。
ベイジルは溢れる涙を引っ込めることもできず、口から漏れる嗚咽をそのままに、人目につくことさえも気にする暇もなく泣きながらアパートへと戻った。
ベイジルが借りている三階建てのアパートは裏路地にあり、全貌を隠すかのようにひっそりと佇んでいる。家賃が格安な分、ところどころ塗装が剥がれ落ち、壁も薄い。おかげで数えるほどしか住んでいないここの住人は自分と同じで、家族や恋人に捨てられた境遇の人間が集まっていた。
けっして住みやすいとは言えないが、それでも穢らわしい自分にはこの場所が相応だ。二〇一号室の八帖一間の狭い家に戻ったベイジルは、ベッドに倒れ込むようにして泣き崩れた。
――どれほどの時間が過ぎただろう。いつの間にか泣き疲れて眠っていたらしい。ベイジルは、ふと顔を上げた。
微かに形を帯びて見える程度で、周囲はすっかり薄暗い。
もうそんな時間なのかと身を起こせば――しかし、どうもおかしい。
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