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疲労。

 そう思ったのは目覚まし時計の針はまだ午後一時を指していたからだ。  たしかに、このアパートは豪華な住宅街の片隅にある。なかなか陽光が差し込みにくい。  それでも常ならば昼間の明るさは感じられる程度はあった。しかし今はどうだろう。太陽の光が一切、遮断されているように思える。  果たしてほんの少し眠っている間に、自分の周囲でいったい何か起きたのか。  とにかく、こう見えづらくては何もできない。  ベイジルは泣き腫らした目を乱暴に擦ると明かりを点けるため、手元にある照明のスイッチに手をのばした。  のだが――。 「あれ?」  スイッチを押しても何も反応がない。  ベイジルは(いぶか)りながら、続いてテレビの電源を触ってみた。するとやはりとでもいうのか、テレビにも反応がない。  照明どころかテレビすらも反応がないこれは、いったいどういうことだろう。  ひょっとすると配線が切れ、停電でも起きたのかもしれない。  ここは輸出港として人々が往来する大都会、ニューオーリンズだ。――とはいえ、この土地だけは違う。世間から見放された者たちがひっそりと暮らすもの悲しい場所だ。停電なんていうのはいつものことだった。  ならば電気が回復するまで待つしかない。  ベイジルは大きなため息をつくと、ベッドの上で膝を抱え、(うずくま)った。  物音ひとつしない静寂という空間がベイジルを包む。  薄い壁の造りになっているこのアパートは、常ならばどこかの階から生活音が聞こえてくる。  しかしどうしたことか、今はその物音すら聞こえない。

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