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ロシュの誤算。

 † 「大丈夫だ。もう君が恐れるものは何もない」  ロシュはベッドの上で、赤子のように怯え泣きじゃくるベイジルの背中を撫で続けていた。  この部屋に来た当初より大分落ち着きを見せはじめているが、それでも身体は小刻みに震えているし、体温もやや冷たい気がする。  ――なぜ、自分は未だこの部屋から去らず、彼を(なだ)めているのだろう。  ここへ来た当初はただ、ベイジルの居場所を突き止めるだけの筈だった。  ロシュは、あくまでもベイジルが自ら抱かれに来るよう、仕向けるつもりだったのだ。  自分との口づけで欲望に炎を灯し、ロシュを欲してどうしようもなくなったところで登場し、メインディッシュをいただく――そういう算段だったのに、結果はどうだろう。今は彼の部屋に入り浸っているではないか。  これでは食事(メインディッシュ)どころではない。  そもそもロシュの思うとおりにいかなくなったのは、ひとつの魔力を感じたせいだ。  それはベイジルと別れる直前まで(さかのぼ)る。

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