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尾行。
愉しい性行為。
結構じゃないか。
斯 くしてロシュは、逃げる兎を追い詰めるため、尾行を開始し、ベイジルの家を突き止めたのであった。
同時に、ロシュはおかしなものを察知した。
それというのも、彼の家から魔力を感じたからだ。
ベイジルの家に近づくに連れて、それはより強くなっていく。
ジェ・ルージュを凝らせば、魔力はベイジルの部屋を旋回するように漆黒の渦となり、アパート全体を囲っているではないか。
そして妙なのはそれだけではない。
ロシュはベイジルの家を旋回する魔力を感じ取ると、瞬く間に心が穏やかではなくなっていた。
自分はバロン・クロア である。
生まれながらに死を司る神だ。たとえどんなことがあろうとも、心を掻き乱されることなどあってはならない。
それなのに、今、ロシュの心はどういうことか。まるで胸の中をフォークでぐるぐると掻き混ぜられるような、居たたまれない感情が覆いつつある。
世に生を受けてからこの方、恐怖を持ち合わせていたロシュにとって考えられない恐怖が彼を襲った。
これはいったいどういうことなのか。
ロシュは生まれ出たこの感情に戸惑いを隠せない。
しかし、ロシュの足はけっして歩く速度を緩めなかった。
お世辞にも綺麗とは言えない脆そうな造りをしたアパートの二階。二〇一号室と書いてあるプレートの部屋に足を運んだロシュは、百をも超える年月の中で、ただの一度たりとも感じたことのない焦燥感を抱きながらドアノブを回した。
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