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彼が求めるもの。
けれども今は過ぎったこの感情を詮索する暇はない。
ロシュはそこから目を逸らし、目の前にあることだけに集中する。
そうしてどうにか彼から去るよう説得すると、魔力はようやく持ち主の元へと戻っていった。
ベイジルの浅い呼吸が次第に落ち着きを取り戻していく……。
これでいくらか、ベイジルの容態は良くなる筈だ。
ロシュの推測を裏付けるように、はしばみ色の目には少しずつ光を宿しはじめていた。
彼はどうやら正気を取り戻しつつあるようだ。
ロシュは内心、ほっと胸を撫で下ろした。
「ベイジル、いったい何があったんだ?」
ロシュは、ベイジルに正気を取り戻させるべく、静かに話しかける。
するとベイジルはロシュの言葉に耳を傾けたかと思えば、彼は嗚咽を漏らし、直ぐさま彼の胸の中に飛び込んだ。
彼はロシュに甘えるように、身体を擦り寄せる。
「大丈夫だ、君はもう恐怖を感じることはない」
ロシュは恐怖で小刻みに震える背中をさすった。
――しかしなぜ、怨恨とは無縁のように思えるベイジルから、ジェ・ルージュの魔力を感じたのか。
エルズーリーという恐ろしい魔女とはどんな因縁があるというのか。
ロシュにはさっぱり意味が分からない。
ひとつ確かなのは、ベイジルが今、ロシュのぬくもりを求めているということだけだ。
ロシュの胸元ですすり泣く声が彼を不安に駆り立てる。
こんな気持ちは初めてだと戸惑いながらも、しかしロシュはベイジルを放って置くことができず、恐怖で丸まった背中をさすり続ける。
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