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惑的。
†
「どうした? 食べないのか?」
八帖一間のアパートはお世辞にもけっして豪華だとは言えない粗末な部屋だ。二人掛けのテーブルに着いたロシュ・サムソンは、同じく目の前で座っているベイジルに尋ねた。
二人を挟んだテーブルには先ほど注文した平たい箱が開封もされずに置かれている。
箱の中のピザはすっかり冷め切っていて、ただただチーズの癖のある匂いばかりが鼻についた。
「……もう、食べたくなくなった」
ベイジルは泣き腫らした目を背け、誰に言うでもなくぼそりと呟いた。
殴られた左頬が痛い。鏡こそ見ていないが、赤く腫れているだろうことは判る。
暴力を振るわれ、性欲処理の玩具として扱われたベイジルの気分はずっと落ちていて、胃のむかつきはどんなに時間が経過しても治まらない。それどころかますます酷くなる一方だ。
「腹が減っていたんだろう?」
秒針が刻まれる細やかな音の合間に、低い声が尋ねてくる。
たしかに、お腹は十分空いていた。しかしそれはバスルームから上がった直後までで、それからはもう気持ち悪いばかりだ。
この気持ちは時間が経っても晴れない。
だったらこの身体に染みついたものを取り除くしかない。
「お願い、今すぐ僕を抱いて」
ベイジルは一度唇を強く引き結ぶと、椅子から立ち上がった。ロシュに近づき、両腕を伸ばす。
その手を彼の太い首に巻きつけた。
ベイジルの情交の申し出は、彼にしてみれば予てからの目的でもある。
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