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甘え。
彼らはロシュの本質を見抜き、すぐに懐いた。
とはいえ、ベイジルにだって人を見る目はある。しかしオメガという穢らわしい性を持っていることで人に好かれる自信がない。
だからこそ、役に立たない人間だと判断すると簡単に切り捨てられるスターリ・ジギスムンドと何年も関係を持っていたのだ。
その結果、ベイジルは彼の子を宿し、挙げ句の果てにはベイジルとの関係は本気ではなかったとこっぴどく振られた。
それだけではない。ベイジルのお腹に宿った新しい命をも切り捨てようとする。
身も心もずたずたにされたその直後にロシュと出逢ったのだ。他人を疑うのも無理はない。
けれども今は違う。
ベイジルは何のフィルターもかけずにロシュ・サムソンという男を見ることができる。
チャストロミエル教会がなければ、ベイジルは今頃、気持ちが伏せっていたに違いない。
彼がいてくれてよかったと、今ならば素直にそう思える。
「……だったらロシュも食べて」
ロシュは間違いなくベイジルを欲している。
そう思うと、ベイジルはより大胆になる。彼の喉元に鼻先を擦りつけた。
これは本当に自分の声だろうか。
話す声音はまるで子猫がじゃれつくように甘い。
当然、ベイジルはこれまで誰かに甘えたことはないし、こんな声を出したことなんてない。
だから内心は本人が驚いていた。
「…………」
そんなベイジルを前にして、ロシュ・サムソンは唾を飲み込み、きつく歯を噛みしめた。
どうやら彼の理性は今、欲望と戦っているらしい。
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