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とりあえず、駄々をこねて困らせてみる。

 自分よりもずっと大人な彼に思うのもおかしいかもしれないが、欲望に打ち勝とうとするロシュの懸命な姿が可愛い。彼のこれは餌を前にしておあずけをくらう犬さながらだ。 「ロシュが食べないなら僕も食べない」  呻るロシュをたたみ掛けるが如く、ベイジルは言い放つ。  ……我ながら子供だ。  客観的に物事を見ているもうひとりのベイジルはそう思った。  だってこんな態度を見せるのはロシュだけだ。スターリーの前ではこんな幼い子供じみた態度なんて取ったことがない。  スターリーはいつだってアルファの自分に見合った有能な人材を求めていた。それは仕事上だけでなく、恋人にも、だ。だからベイジルもまた、彼と釣り合うような行動を心がけるようにしていたのだが――ロシュは違う。  あからさまにベイジルの身体を求めているものの、しかしベイジルを(おもんばか)ってくれるのも彼だけだった。 「わかった。おれが食えば君も食うんだな」 「うん」  ベイジルが大きく頷くと、ようやく観念したロシュはピザの一切れを掴んだ。  するとほんの一瞬にして一切れのピザが彼の手から消えた。  それは恐ろしく早業だった。彼は手にしたピザをずっと小さく丸めると、そのまま口に放り込み、丸呑みしたのだ。  子供が嫌いな食べ物を食べる所作に似ている。 「…………」  ピザを口にしたロシュはそれっきり目を閉ざしたまま動かない。  眉間に深い皺ばかりが刻まれていた。 「あの、ひょっとしてピザ、苦手だった?」

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