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悲愴。

(大丈夫。こういった症状は彼に始まった事じゃない。いつもこんな感じじゃないか)  ベイジルは悲しいこの行為の果てにある快楽のみを信じ、現実から逃避する。  けれどもロシュはベイジルが考えていた、ただ自身を貫くだけの獣じみたような真似はしなかった。  彼はもう一度唸り声を上げた。  ベイジルは何事かと見下ろせば、ロシュは血走った目を閉ざしている。大きく息を吸い込み、両手に拳を握っている。  それはまるで、オメガという狂わせる因子を振り切るようだった。  そして彼がふたたび目を開けた時、そこには血走った目はなく、赤いルビーの瞳があるばかりだった。  そしてロシュは動いた。  拳を解き、ベッドに横たわった華奢な腰を持ち上げると、ゆっくりベイジルの後孔に身を沈めていく。  それは労りを見せるような、壊れ物を扱うような優しい行為だった。  彼は自分の腹に赤ん坊が宿っていることを知っているのだろうか。ふと疑問が過ぎるものの、しかしベイジルは自分のことを何ひとつ話してはいない。  小さな命もまだ宿ったばかりで、腹も大きく膨らんではいない。ともすれば、ただの思い過ごしだろう。  ――ああ、彼は自分が思っていた以上に強固であたたかな男性だった。  ベイジルは彼のすべてに心を打たれた。目に涙を浮かべ、しゃくりをあげる。 「ベイジル?」  乱れた息を吐き出しながら、彼が尋ねる。  ベイジルはなんでもないと首を振った。強固な意思を持つ彼に抱かれたい。

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