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押し寄せてくる恐怖。

 けっして車がごった返しているわけではないその車道は、しかしそれ相応に行き来はある。当然、車道と歩道はきちんと分けられている大きな橋で、事は起こった。  ベイジルが運転する車のボンネットに重たい何かがのし掛かったような音が聞こえると共に車体が低くなったかと思えば、フロントガラスに女性の顔がべったり張り付いていた。  ベイジルは腹の奥底から込み上げてくる恐怖に鋭い悲鳴を上げ、急いでブレーキを掛ける。おかげで車は方向性を失い、対向車線へと突っ込んでしまった。  大きな橋を中心にして車のクラクションが飛び交う。後方では衝突が起きて煙が出ている。  フロントガラスを見ると、そこに血糊はべったりと付着しているものの、女性の姿はない。目の前には海ばかりが広がっていた。車ごと今にも深い海に落ちていきそうな緊迫した空気が流れる。 「なんで……どうして?」  ベイジルの脳内は今、アドレナリンが吹き出し、興奮状態だ。その中でもなぜ、女性がフロント硝子にべったりと張り付いていたのかが判らない。  ぶつかった衝撃はもちろん、人が歩いている筈もない。それなのになぜ彼女はこうして自分の前に現れたのか。  いくつもの何故がベイジルの頭の中を占領する。  ――このまま、海に落ちて死んでしまうのだろうか。  ベイジルは突然の出来事でパニックに陥った。吐き気が込み上げてくる。  そうこうしているうちにも車体は軋みを上げながらみるみる内に傾いていく。

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