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廃墟。

 ここはいったいどこなのだろう。  季節は夏なのに、ひんやりとした冷気が肌を包み込む。周囲に漂うじめついた空気と一緒にかび臭い匂いが辺り一帯に充満している。  静かなそこは無機質で、ベイジルが動くそのたびに、衣擦れの音が響き渡る。  ――いや、それだけではない。  頭上を通っている剥き出しになっている配水管は錆び付いていて、ところどころから水が滴り落ちている。  ぴちゃり、ぴちゃり。  配水管から滴る水音が不気味さをさらに演出してくるからたまらない。  ここはかつて、アパートだったのか。ベイジルが運転する車が突っ込んだのはガレージの一角だった。  古びたそこにはもちろん人がいる気配はなく、崩れ落ちたコンクリートに骨組みとなっている鉄筋が見えているばかりだ。  パチパチと乾いた音を立て、青白い照明が足場を照らす。  照明はすでに切れているものもあれば、今まさに寿命を迎えようとしているものもある。  ――操作もしていないのに勝手に動いた車。  ――突然現れた血まみれの女性。  ――視界が悪い見知らぬ廃墟。  さまざまな恐怖が押し寄せ、すっかりパニックに陥っているベイジルは腰に力が入らない。膝が笑って立つことさえできない彼は腹這いになってどうにかこの陰気くさいじめついた場所から出ようとする。  ベイジルは出口を探し、地面を這っていると、進む先に人影を見た。  このような廃墟にわざわざやって来るなんていったい誰だろう。

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