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迫り来る死。
しかしロシュはこの悪魔の上司である。力も十二分に知っている。当然、悪魔の攻撃も威力も想定内だ。
いくら力の差があるとはいえ、この悪魔は上級レベルで、下級の精霊であるゴブリンやニンフたちとは違う異質な者だ。
当然、すぐに決着がつくような相手ではない。
それに、今はベイジルもいる。強く腹を打ち付けたことで、彼から発せられる心臓の鼓動は着実に弱々しくなっているし、赤ん坊に至っては瀕死寸前だ。
もし仮に、赤ん坊が死に、ベイジルだけが生き残れば、彼はどうするだろう。
責任感がある彼のことだ。赤ん坊を殺した責任を感じ、一生を苦しみながら生きるに決まっている。
そうなれば、背徳を自責するベイジルを見るたび、ロシュの胸は引き裂かれるように痛むだろう。彼のそんな姿なんて見ていられない。
ともすれば、一刻も早くあれを片付ける必要がある。
ロシュは決意すると、土埃が周囲を包むそれを利用して、悪魔から生まれ出た影に身を沈めた。
ひと息に間合いを詰める。
「貴様ごときの低級がこのおれを倒せると思ったのなら、見込み違いというものだな」
瞬く間にロシュは悪魔の背後に回った。
けれども悪魔の方もロシュを察知していたようだ。振り向き様、今度は手にしていた大鎌を横へ凪いだ。
恐ろしい速度で宙を舞う大鎌が風を纏い、呻る。
ロシュの胴体を真っ二つに引き裂かんが為、空間ごと切り裂いた。
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