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闇の主。

 ロシュに逃げ場はない。大鎌が命中したかと思えば、しかしそうではない。  鋭い切っ先がロシュに届いたその瞬間――そこに手応えはない。  ロシュは意識を無に帰属させた。  意識ごと、身体を影へと溶け込ませる。 「おれは影。闇そのもの。お前たちの父、バロン・クロアだ」  その言葉どおり、影になったロシュは悪魔の足下からふたたび姿を現した。  ロシュが手を掲げ、そのまま横へと動かせば、悪魔はまるで実際に身体を掴まれたかのように動く。  悪魔は自由を失い、駐車場の左から右へと恐ろしい速度で移動する。  そうしてロシュはこれが最後だと言わんばかりに大きく手を振り下ろし、地面に強く叩き付ける動作をする。  するとやはり悪魔はロシュの動きに合わせて身体を強く打ち付けた。  同時に耳を劈く鋭い悲鳴が異空間に響き渡る。おぞましく、人間ならば聞いただけでたちまち死んでしまうだろうその声は、絶対的恐怖を帯びたものだった。  もし、ベイジルの意識があれば、彼も、彼の体内に宿っている赤ん坊共々死に至っていたかもしれない。  今に限ってはベイジルが気を失ってくれて良かったと、ロシュは思った。  それでもベイジルの体内に宿る生命の灯火が今にも消えそうだ。  同時にベイジルの心音も弱くなっている。  これはよくない兆候だ。 (くそっ! なんだってこういう事態になったんだ!!)  ロシュは奥歯を強く噛み締めた。

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