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真実と本当の心。
『自分一人の身体ではない』
彼は先ほどそう言った。それはすなわち、ベイジルの体内に赤ん坊がいることを知られたことを意味する。
ベイジルの身体はすっかり縮こまり、小刻みに震えだす。
ベイジルの状態が芳しくない。容態に気が付いたロシュは自らの大きな手でベイジルの手を包み込んだ。親指で円を描きながら、これまで重労働で傷ついたその手の甲を撫でる。
そんな中で、ベイジルは静かに口を開いた。表情は強ばっていて、声には抑揚がない。まるで機械のようだと本人でもそう思うくらいに……。
「ロシュは――……もう知ったんだ?」
おそらくは医師がベイジルの身体を診た時だ。ベイジルの腹に宿った赤ん坊の存在に気付き、ロシュやシスターたちに公言したのだろう。
(ああ、どうしよう。身籠もっていることをロシュに知られた……)
ベイジルは身を強張らせた。だって、自分が赤ん坊を身籠もっていると判れば、ロシュはもう自分には興味がなくなるだろう。
ロシュもまた、嘗 ての恋人だったアルファ。スターリーのように赤ん坊がいるオメガは面倒臭いと言って捨てるに違いない。
――いや、違う。捨てるも何も、そもそもロシュと自分は端っから付き合ってもいない。ただ性欲に溺れて身体を重ねたにすぎない。
それでもこうして自分に付き添っているロシュはとても情に溢れた優しい男性だ。なぜ同じアルファでもこうも違うのか。スターリーとは比べようにもならない。
現に今だってロシュは身を強張らせた自分を労りの目で見つめ、こうやってベイジルが落ち着くようにと手の甲を撫でてくれる。けれどもベイジルは少しも気分が楽になりそうにもなかった。
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