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依-3 視線と視線

 確かに、高校に入ってからは特に一緒に居る時間が減ってきていた。同じクラスで無いのもその一因で、廊下ですれ違ったり見かけたりして手を振り合うくらいだった。最近は、お互い何をしてるのかどういう状態かもよく知らない。  正直俺も、嫌というか、寂しかった。だから、その提案は俺にも良いことだった。  気持ちの問題以外は。 「タピオカ!」  夏道が公園の側に停まっていた移動販売車を見るなり声を上げた。 「女子か」 「美味しいじゃんあれ」  タピオカカフェラテを一つ買ってきた。 「依はいらないの?」 「いらない」 「一口いる?」 「……」  口だけ近づけて飲んだ。タピオカを一気に三個ほど吸い込んでしまって口の中がいっぱいになってしまうと、笑われた。  よくやっていることだが、付き合っている現状で回し飲みをするのは少し恥ずかしい。目の前の奴は全く気にしてないけど。  無理やり飲み込んで、そそくさと足を進めた。  図書館は人こそ多かったが、やはり涼しい。長机の席に並んで座って勉強道具を広げた。  図書館だからというのもあるが、勉強中は静かだ。意外に真面目な奴。  体の汗はいつのまにか引いていた。真剣に取り組んでいるその視線や、文字を書くたびに動く腕の筋や浮いている血管を見るのは飽きない。同じ男だが、ほんとに男らしく成長したと感心する。  不真面目なのは俺の方だった。気を取り直して残りの課題範囲を確認し始める。  分からない所があると聞いたり一緒に考えたりする程度で、勉強が終わるまで会話はほぼない。俺も途中からだが最後まで集中していた。だから、気づかなかった。  一段落して、シャーペンを置いて伸びをした。  ふと隣を見ると目が合った。  夏道は頬杖をついて、体もこちら側に向けていた。俺と目が合うとニッと笑う。  見られてたのか。いつから。いや、人の事言えないけど。  伸ばした腕をゆっくり下ろしながら平然を装って「なに」と聞いたが、「別に?」と微笑ってはぐらかされた。 「終わったろ? 帰ろうぜ」  とっくに片付けは済ませていたようだ。俺も自分のをカバンに詰めながら、周りを見渡す。来た時より人が少なくなっていて、窓からは西日が差し込んでいた。  外に出ると熱風に煽られた。涼しい場所からのこれは気持ちが宜しくない。隣を見ると同じ事を思っていたのか、顔をしかめていたので笑った。  昔から距離が近いせいだと思う。夏道は人懐っこいし。互いを思い合ったり大事にするのも、友人だから。  今までの関係が強く思えて、馬鹿げた新しい関係は逆に不安になった。  本当に、なぜ付き合う事になったのか。疑問も気持ちも置き去りだった。

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