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依-4 寝顔と膝枕
この学校にも屋上があったら良かったのに。そう思っても無いものは無いから、やはり場所を変えるべきかと考え込んでいた。
中庭は人気の場所なので、休み時間も放課後も人が多い。
ベンチで昼寝している夏道の顔をガン見できない。
昼寝中の夏道の顔を覗くのが楽しみだった。起きている時はチラ見しかできないから。無防備な表情で時々イビキをかいてたり、寝相悪くお腹を出していたりして面白いのだ。でも、此処は他の人がいるので、しばらくできていない。
屋上だったらきっと思う存分見れたのに。
体育館裏はどうだろう。他の生徒がいるだろうか。
人通りがほぼ無い階段近くはどうだろう。寝るには向かないか。
夏道は体も大きいので一つのベンチを独占していて、座れないので立ったまま考えていた。ユニフォーム姿も格好良い。日除けで帽子を顔に被せているのは惜しい。見えない。結局ガン見はしているんだが、周りから見れば座れない事に無言で抗議していると思われているだろう。他にも空いてるベンチはあるけど。
イビキを一つかいた夏道は薄目を開けた。
思わずニヤッと笑ってしまった自分の口を手で隠しながら「起きた?」と声をかけてみた。ゆっくりと上体を起こしたが、俯いて寝ぼけている。場所が空いたので、落ちた帽子を拾って腰を置いた。
「あとどんくらいある……」
「五分くらい。そろそろ練習再開するんでしょ」
答えた時、あと三分は寝そうだなと思った。案の定、それを聞いた夏道は再び横になろうとする。
座ってしまった事に少し後悔した。
自分の膝の上に重い頭を乗せられた。
周りから見られているだろうか。確認もしたくない。今こそガン見できるにはできるが、そんなことをする余裕は無くなった。
苦い顔をするしかない。
そうだ、次からは本を持っていよう。
あと三分、どうしよう。
とりあえず、帽子を夏道の顔に被せた。
「なんか今日、枕があった気がした。よく寝たー」
伸びをしながら歩いている。気づいてないようなので言わない。
「じゃあ、またな」
「うん」
駆け足でグラウンドへ行く背中を見つめる。
また、は、いつだろう。
付き合い始めてから、一緒に居る時間は一応増えた。昼休憩や学校以外での勉強だったり。夏休み中の今でも、部活で学校に来る夏道に合わせて、自分には必要ない夏期講習に来るようになった。放課後や休みであっても練習に明け暮れているその姿は格好良い。
それでも次が待ちきれない。
「やっぱガン見しとけばよかった……」
そろそろ講習の時間なので、教室へ足を向けた。
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