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夏道-1 俺のモノ
「機嫌いいな、夏道」
「あ?」
練習前の軽い運動中に部活仲間に言われた。
「なんでそんな事」
「ずっとニヤついてるから」
「ていうか最近よくニヤついてるぞ。前よりはマシだけど、気をつけろよ」
「何をだよ」
笑いながらキャッチャーミットを投げ渡す。
本当に、何に気をつけろと言われたのか分からないが、指摘された事の原因は分かっていた。確かに俺は機嫌がいい。
互いに態勢を整えたのを確認して、ボールを握って構える。
投げたボールは勢いよくミットの中に吸い込まれた。ボールがミットに当たる音は爽快だ。
投げ返されたボールをキャッチして、その後も続けて投げる。
アイツと付き合うようになってからだ。
それまでは、顔に出るほどイラついていた。
アイツ……依とは、小学からずっと一緒で、隣にいるのは当たり前だった。
いない日が続くにつれて、それは決して当たり前ではなく、当たり前だと思い込んでいた自分にも驚いた。それで気づいた。
アイツを隣に置いておきたい。
俺は、依を自分のモノだと思っていた。
初めて会ったのは小一の時。
二人組のチームを作るように先生に言われた。そういう団体行動を面倒に思っていた俺は無視して一人でいると、依が近づいてきて「いっしょにやろう」と笑って言った。
周りから避けられている自覚があった俺は、そんなコイツの存在に驚いた。入学式から一緒だったと思うが、依を真正面から見るのはこれが初めてだった。
「……なんで、オレとなんか」
「ほかのこは、みんなもうふたりずつだったから」
「しょうきょほうかよっ!」
「しょう……?」
言葉の意味が分からなかった依は小首を傾げたが、構わずまた笑って隣の席に着いた。
「よろしくね、なつみくん」
それからよく一緒にいて遊んだ。最初の頃は依が付いてきたけど、そのうち俺の方が依に付いていく様になった。
依の俺を見る目がたまらなかった。
「集合ッ!!!」
監督の掛け声で我に返った。
キャッチャーにはバレていたのか俺を見て笑っている。「集中しなきゃ怒られるぞ」と、こっそり言われた。
部活が終わる頃、空は真っ赤だった。アイツはとっくに一人で帰っただろうな。
仲間と別れて校門へ歩いていると、門の側に人影を見た。驚いたが、同時に急いで駆け寄った。
「なんでいんのっ!?」
声色で自分のはしゃぎようがよく分かる。門柱にもたれていた体を起こして依は笑った。
「帰ろうとしたら夏道も帰ろうとしてるの見えて。ちょっと待ってみた」
嬉しくなった。依の隣に立って、一緒に帰り道を歩いた。
付き合う事を提案したのは、コイツが女子に告白されたっていうのを聞いたから。
誰かと付き合われたら、余計一緒にいれなくなる。それは腹が立ってくるほど嫌だと思った。
――「お前、ほんとワガママな」
そう言われた時は認めざるを得なかった。でもこれで正真正銘、依は俺のモノになった。
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