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依-6 地雷に触れる
近い。
目が近い。鼻が近い。唇も近い。とどのつまり顔が近い。その眼差しは鋭く嫌悪に満ちていて、正直怖い。
俺は、こいつの地雷を踏んだようだ。
「この関係っていつまでだろうな」
「は?」
五分もかからず昼飯を食べ終わってペットボトルのお茶を飲んでいた夏道は、ぶっきら棒に返事した。「飲むか?」と言われたけど断った。
「お互い付き合ってる人居ないからこそ出来てる関係だろ? どっちかが他の人と……その、付き合う事になったら終わりじゃん」
「は?」
あ、声のトーンが低くなった。怒っている。何に……?
隣からの痛い視線を気にせず前を見たまま話を続けようとしたが、急に距離を詰められた気がした。恐る恐る隣を見ると、夏道の顔が目の前にあった。
目を見開いて思わず後ろに仰け反った。倒れない様に両腕を後ろに突っぱねるが、こいつも片腕を前に出してさらに近づいてきた。
「相手いんの? 誰?」
近い。
話す吐息が俺の唇にかかった。
夏道の腕が、わき腹に少し触れている。そこから熱が伝わってくるようで、すぐにでも自分の顔を隠したかった。
「……い、ない、け…ど……」
口を動かすと互いの唇が当たってしまいそうな気がした。もう何も言えない。
「……じゃあ大丈夫じゃん」
大丈夫、とは。いや、今はそんな事考えられない。
トーンが少し明るくなった。真っ直ぐ見つめてくる目もさっきと違って怖くない。けど、この距離を離そうとしなかった。俺は必死に平然を装っているが、目はとても泳いでいる。
「まつ毛なっが」
その台詞をまともに聞く余裕は無い。緩んだ空気の隙をついて、両手をゆっくり前に押し出すと夏道はされるがまま離れてくれた。素早く立ち上がる。
「……トイレ」
「俺も行く」
当たり前のように付いてくる。いつもの事だが、今は来ないで欲しかった。競歩並みの早足なのに、こいつは大股で速度を合わせて普通に並んでくる。体育会系め。
「そんなヤバイの?」
変に心配されてしまうが、構わずトイレの個室に篭った。
俺の顔は今、どんなだ。
体が熱い。
夏道が近かった。
自分から近づいて寝顔をガン見するのとは訳が違う。
近かった。
ドキドキした。嬉しかった。もう少し傍に感じていたい気もした。でもあいつも、周りに人が居たであろうあの状態も怖かった。色んな感情がぐるぐる回る。
夏道の息が触れた唇を、指先でなぞる。火照った体が苦しくて両手で顔を覆った。
「大丈夫か?」
不意に、上から声がした。
指の隙間から見ると、夏道が隣の個室からキョトンとした顔をのぞかせていた。
出るものは何も無いが。
「……うん」
一応、ズボンとパンツ下ろしといてよかった……。
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