10 / 161

夏道-2 依の家

 野球は好きだ。練習も試合も本気だし、プロを目指している。高校でも良い結果を出すつもりだ。  でも、それとこれとは別だ。  依が足りない。  依が欲しい。  時間があったら練習したいのもあるけど、これには限界がある。  だから、今日は依の家に泊まる事にした。 「……唐突だな」  表情が固まったあと、だんだん眉間にシワが寄ってジト目になってそう言った。言われるとは思ったけど、顔、面白いな。  首を傾けて「ダメか?」と聞いたら目を逸らされた。少しの沈黙の後、依は小さく口を開く。 「……別にいいけど……」 「ヨッシャアッ!」  大袈裟に喜んでしまった。「着替えは?」と聞かれたが、「一回家に帰るから」と答えて親指を立てた。 「親は?」  「お邪魔します」と言って玄関に入ったが、人の気配は無かった。 「父さんは出張。母さんは友達と旅行中」 「へぇ。旅行ってどこ?」 「京都」 「いいなー。俺らもいつか行こうぜ」 「中学の修学旅行で行ったじゃん」 「今度は二人で行くんだよ」 「……そんな時間ないでしょ」 「いつか、さ。行こうぜ」  先に台所に行って二つのコップにお茶を入れて、俺が両方持って二階の依の部屋に行く。  コイツの部屋はシンプルだ。白と青系で色がまとまってて、四角いテーブル、本棚二つに、ベッド、クローゼット。今の季節は扇風機があるけど、それだけ。娯楽物が無い。小説をいくつか持ってるらしいけど、文字ばっかりはなぁ。  依がベッドを背にテーブルの前に座ったから、俺はコップをテーブルに置いて、ベッドに座った。  依の体を挟むように両脚を置く。ゲームをする時によく居る位置だ。コイツは一瞬固まったけど、カバンから勉強道具を出してテーブルに広げはじめた。 「なんだよ。遊ぼうぜ」 「まだ課題あるから」 「折角ゲーム持ってきたのに……」  カバンの中のゲーム機が可哀想だ。まぁ、久々に依の部屋に来れたし二人でいれるし、いいか。でも、まだ夜の七時くらいだ。俺何しよう。  目下の後頭部を見つめてみる。  ストレートの短髪で、触ってみると柔らかい。胡座をかいているけど背筋は真っ直ぐだ。身体つきはまぁまぁ成長してて、ちゃんと男に見える。でも半袖から伸びる腕は白くて、指先まで綺麗だ。  ていうか、この前野外にずっと居たのに肌白いって……。ちゃっかり日焼け止め塗ってたんだな。  暇だ。  依の肩に両腕をかけてもたれる。 「……重い」 「おー」  依の体が熱い。扇風機かけてるけど、くっついてるからな。そりゃ暑いよな。ていうか全然こっち向かねぇ……。構えよ。  顎に触れて、顔を上に向かせて覗き込もうとした。けど、凄い勢いで手で止められた。  下を向いたまま黙ってる。コイツは今、どんな顔してんだ? 「………アイス、いる?」 「えっあんの? いる!」  返事を聞くより早いか、俺の片脚を手でずらして、脚の間から出て立ち上がった。付いて行こうとしたら、「取ってくるから待ってて」と言われて閉められた。  ドアの前で立ち尽くす俺。

ともだちにシェアしよう!