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夏道-3 依の家 続
アイツ冷たいな。最初の頃は可愛く懐いてきてたのに。いつから、ああなったんだっけ。
ベッドに座り直してしばらく待ってたけど、戻って来ねぇ。アイス取りに行っただけだよな?
ドアノブに手をかけて行こうとしたら、近づいてくる足音が聞こえた。開いたと同時に頭をぶつけた。隙間から顔をのぞかせた依は真顔で「ごめん」と言う。デコをさすりながら見ると、お盆を持っていた。
「何それ」
「晩飯、まだなの忘れてて。作り置きのチャーハン持ってきた」
「アイス……」
「アイスは、あと」
依はそれをテーブルに並べて、元の位置に座った。俺も胡座をかいて隣に座る。「いただきます」と手を合わせて、一口目から大口で食べる。ウマイ。
「依が作ったの?」
「うん」
「ウマイ」
「……どうも」
一瞬嬉しそうな顔をしたけど、すぐ真顔に戻った。可愛いな。
俺はもう平らげた。
アイス食べたい。チラッと隣を見ると目が合ったから、俺の思考バレてるな。
「……冷凍庫の下の段にある」
「お前は?」
「バニラ味」
「了解」
棒アイスだ。食後のアイスもウマイ。
俺はかじる様に食うけど、コイツは舐めるタイプだ。そんなんじゃ溶けやすいと思うんだが。唇が白くなってる。
――「食べてるんだから口が汚れるのは当たり前じゃん……。食べ終わってから拭く」
口元に色々付くのを、コイツはそう言い訳して何でも美味しそうに食べる。舌で舐め取ってはいるけど、まだ付いてるぞ。笑うわ。
「お前さぁ」
手を伸ばして、下唇を親指で拭ってやった。付いたアイスを舐める。
「そういうとこ、相変わらずだな」
言いながら笑うと、依は俯き加減で目を見開いたまま固まった。眉間にシワがよって赤くなって、口を一文字に強く結んで、空いてる手で顔を隠した。
あ。
思い出した……。
キスをしてからだ。
コイツが冷たくなったのは。
依は残りのアイスを口に詰め込んで、完食すると立ち上がった。
「風呂入ってくる」
そう言って空の皿をお盆に乗せて持って出ていった。
小学低学年の頃、誰かと付き合うとかチューがどうのとか、やけにませた話が話題になった時期があった。俺は興味ないって言ったら何故かからかわれて、ムカついて依に愚痴ったら、内容自体を理解されなくて。
実際にやってみせたんだ。
キス。
あのいつもの待ち合わせ場所でしゃがみ込んで。
その瞬間、虫の声も風に吹かれる葉の音も、何も聞こえなくなった。唇に触れた感覚は、やわらかいなって思うくらいだった。
でもアイツはすごく驚いた顔をして、耳や首まで赤くなって俯いて照れた。
それ以来だ。優しいのは変わらないけど、態度が素っ気なく冷たくなった。
怒ってんのかな。
さっきのも、嫌だったのかな。
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