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依-11 早朝の一驚

 寝苦しい。  やっぱり、俺の部屋にもエアコンを付けてくれないかな。扇風機の出力が最大でも、真夏のこの蒸し暑さは耐え難い。  壁側を向いて寝ていた俺は、薄目でカーテンの隙間を見た。明るくなっている。起き上がろうとしたら、何故か動けなかった。なんで。 「ん……」  首元に寝息がかかって思わずすくみ上った。  後ろに夏道が居る。  がんじがらめに抱きつかれていた。通りでビクともしない。  下の階から物音が聞こえた。母さん、帰ってきたのかな。階段を上ってくる足音がした。 待って。 「おいっ夏道……っ!」  起きないのは分かっている。でもどうにかしてベッドから落とせれば……、我ながら酷いな。でもやはりビクともしない。岩か。 「依〜、起きてるー? ただいまー。開けていい?」 「待って!」  開けてきた。待てよ。 「おはよ〜、って、何その大きい子」 「……」 「もしかして夏道君っ? やだ〜少し見ないうちにまた大きくなったんじゃない? ベッド大丈夫?」  ……まぁ、ベッドを心配するよな。ほんと何でこいつ登ってきたんだ。母さんが騒いでいると、モゾモゾと動き出した。  後ろ側に立っている母さんの方を向いて「……はざす」と一応挨拶したが、寝ぼけている。その隙に夏道から脱出してベッドから立ち上がる。 「おはよ〜夏道君。旅行のお土産買ってきたの、良かったら依と一緒に食べてねー」  そう言って紙袋を置いて出て行った。  さっきの状態を疑問にも思わないのは、小さい頃よく同じベッドで寝てたからだろうけど……。びっくりした……。  俺の気も知らないこいつは眠気まなこをそのままにゆっくり起き上がってきた。 「……いまなんじ」 「六時前」 「……寝すぎた。朝練いかなきゃ……」  ……まぁ、こいつらしいけど。  さっきの状態、いつからだったんだろう。昨晩の事まだ気にしてたのかな。  三人で朝食を取った後、夏道は母さんに挨拶して早々に家を出た。 「いってらっしゃい」 「おう」  朝のランニング代わりだろう。寝起きとは裏腹に軽快な足取りだった。  あいつは寝坊したみたいに言ってたけど、時間的にはまだ早い方だ。鳥の鳴き声がこだまして、日が照る前のこの空気は心地良い。  姿が見えなくなるまで見送ると、俺は家に入った。 「今日も講習あるの?」 「無いけど、図書館に行くつもり」  色々ありすぎたこの家からとりあえず出て、落ち着きたかった。  でもまだ開いてないから……、散歩でもしようかな。  図書館側の公園へ足を踏み入れた。  犬の散歩やランニングをする人が居たけど、静かだった。照らす日が眩しく感じてくる。今日もよく晴れるんだろうか。  ……夏道に好きと言ってから、いよいよどうしていいか分からなくなった。多分、今までと変わらないだろうけど。変わらなくて、いいのかな……。 「あれ〜〜っいっくんだ!」  静けさの中に突然明るい声がした。  その方を見ると、航がこちらへ走って来ていた。  このタイミングでこいつが来たか……。

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