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依-12 友と海
すれ違った犬の散歩中の人に声をかけて、しゃがみ込んで犬と触れ合っている。手を振って別れた後やっとこちらへ走り着いた。
「なんでここに……」
「逃げてきた!」
「え、何かやったの?」
「ちょっとね〜、苦手な人から」
「へぇ……、犯罪ではなく?」
「違うよっ!?」
「ならいいけど」
航は休憩と言って芝生の上に座り込んだ。少しはぐらかされた気がする。
こいつは、学校ではムードメーカーな奴で、誰に対しても優しく楽しそうに振る舞う。そんな奴にも苦手な人が居るなんて……。深く聞かない方がいい気がしたので、黙って隣に座った。
「いっくんは何でここに?」
「図書館開くまで暇つぶしてた」
「あぁ! そう言えばそこ図書館か〜」
「行ったことないの?」
「小さい頃行ったけど、騒がしいからって出禁になったような記憶が」
「なるほど」
「納得されたっ」
大袈裟にリアクションをとるのを、話したくない事から気を逸らすためかと思うが、それは考えすぎか。
「この後どうするの?」
「オレ? 特に何も〜。いっくん図書館行っちゃうんだよね〜」
「……別の場所でもいいけど」
「いいのっ? じゃあ一緒に遊ぼ!」
「課題あるでしょ」
「たまには休まなきゃ疲れちゃうよ?」
「休みすぎのお前に言われると頷けない」
「海行こうよ! 夏なんだから!」
「……海か……」
こいつはただ勉強したくないだけだろうけど、海というワードには魅 かれた。今年はまだ行っていない。合意すると、はしゃいで喜んだ。
少し話を聞いて欲しかったのだけど、いざそう決めるとなんだか恥ずかしい。
公園を出る時、航は警戒するようにキョロキョロと見渡してから出てきた。ほんとに逃げてきたんだな……。
何も持っていないと思ったけど、尻ポケットに財布を入れていたようでそのまま二人でバスに乗って海へ向かった。
想像はしていたけど、人が多かった。
浜辺にはシートが敷き詰められていて人でいっぱいだった。海の家も大盛況の様で、お客の列ができている。
「こっちこっち!」
いつの間に離れたのか、航は人の波の向こう側から手招きしている。なんとか合流すると、先導されながら何処かへ連れていかれた。
浜辺から随分離れた岩場の多い場所に来た。木陰のある所に座る。
岩に当たる波がはじけた。暑いから潮風は蒸すけど、水しぶきがかかってほんのり涼しい。水平線を眺めると、海は青空と溶けてキラキラとしていた。
海へ来た。
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