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依-13 友と海 続

「ここ穴場なんだよ〜〜、岩場だけどっ」 「でも、ここでは泳いだらダメだろ」 「あっ 泳ぎたかった?」 「……別に」  夏道と海へ来た時は一緒に泳いで遊んでいた。勉強ばかりの俺でも、全く遊ばないわけでは無い。夏道といる時にそう思う。あいつが楽しそうにしていると、俺も楽しくなった。 「……俺ってゲイなのかな」  航が口をぽかんと開けてこちらを見た。  うん……、だよな。突然何を言うんだ俺は。  何と続けていいか分らず目を泳がせていると、航が顔を寄せてきた。 「オレのことどう思う?」 「……え、普通」 「普通てッ」 「別に、夏道以外はどうでもいいんだけど」 「どうでもいいてッ」  いちいち背を反らせて大げさにショックを受けている。性別関係無く、夏道以外にこういう気持ちを抱いたことは無いんだ。 「……あいつに、好きって言ったんだ」 「へぇ!」 「でもあいつは、友達として受け取った」 「ほー」 「本当の事、言った方がいいと思う……?」  俺の顔を見た航は、笑った。 「いっくんは、言いたそうだ」  それが答えだと言う様だった。  うん。  本当の事を言ってしまいたい。でも怖い。 「──オレも、ビビってるのかもなぁ」 「……え?」 「言わないままでも、言った後でも、きっと苦しいと思うんだ」  航は真剣な顔をして、でも何処か悲しそうに海の方を見つめていた。俺は、その顔は見ないフリをした。前に、「苦しくない?」と笑って聞かれたことがあったけど、その時とは印象が違う。 「……どっちにしろ苦しいのか」 「言ったらちょっとだけ楽になるよ、きっと! 怖いばっかりのただの想像も、しなくて済むし」 「あぁ……、そうかもね……」 「一緒にがんばろっ!」  体をこちらに向けて、両拳を握り張りきる様に言った。こいつは何を思ってそう言うんだろう。どうしてか、聞けない。 「ヴァッ!!!」 「うわっ!?」  目の前でいきなりすくみ上がって驚いたこいつに驚いた。岩から滑り落ちかけた……。危ないなオイ。  航は尻ポケットから携帯を取り出した。バイブレーションに驚いたらしい。画面を見ると苦い顔をした。 「……出なくていいの?」 「うーーーん……。あとで掛け直そっ」  そのままポケットに戻した。  別れる時、やはり気になって歩いて行く背中を呼び止めた。 「言いたいことあったら、聞かせてよ」  それしか出てこなかったけど、振り返ったあいつははにかんで「うん!」と返事をした。夕焼けの景色の中だからか、あいつの顔も赤らんでいる様に見えた。  俺ら友達だろう。お前のことは、どうでもよくなんかないからな。  家へ帰り着く頃には気持ちが落ち着いてスッキリした気分だった。  今度は夏道と海へ行きたいと思った。次会った時の俺の顔は、どんなだろう。

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