17 / 161

夏道-4 モヤモヤ

 試合後の食事会で和食店に来ている。今日も無事勝ち進んでひとまずの休息だ。  同じテーブルを囲むのは俺を含め三人。目の前の席にキャッチャーの三戸誠志郎( みと せいしろう)、その右隣にサードの五色大護( ごしき だいご)。このメンツは中学からの付き合いだ。 「いつもの」 「いつもの」 「俺が持ってこいってか」  (せい)はコーラ、大護は烏龍茶。俺は水がいいや。それぞれ入れたコップを持って席に戻る。  飯は量が多いのを適当に選んだ。誠はいつも決めるのが遅くて、メニュー表を眺めながら駄弁り始める。 「夏道さ、あの人と一緒に過ごせてるの?」 「まあまあ」 「野球馬鹿のお前がね……、想像できないわ。ていうかうらやましー。いつ別れるんだ?」 「アイツを手放す気はねぇよ」 「……フーン。マジなんだ」 「早く選べよ。大護は?」 「豚カツ定食ご飯大盛り」  大護は誠の見ていたメニュー表を横目に即答する。 「もうヤった?」 「は? 何を」 「やっぱ馬鹿なのかお前」 「だから何を」 「……本当にその人と付き合えてるのか?」 「おう」 怪しげに見られる理由は分からないが、やっとメニューを選んでくれた。腹減った。  この二人には、依と付き合い始めたとだけ言ってある。相手が男と言うと声を上げられたけど、俺が誰かと付き合う事自体に一番驚かれた。大護はずっと真顔で聞いてたけど。  その後も色々聞かれたが、全部恋人同士がする下ネタの話だった。「ヤった?」っていうのもその意味だった。コイツそういうの好きなんだよな。  俺等は正しい意味の恋人というわけではないからそういうのはしないし、考えたこともない。これも言った方が良いのかな。なんでか言えずにいる。 「その依って人幼馴染なんだろ? なんで最近になって付き合い始めたんだ?」 「あー、会えない事が多くなったのが嫌でな。それで付き合おうって言った」 「それって、その前から好きだったって事かよ」 「え? あぁ、まぁそうだな」 「ふぅん……」  「好き」か……、うん。俺は依が好きだから、ウソじゃない。  何で今引っかかったんだろう。  食べ盛りの俺等は二回くらいお代わりした気がする。みんな腹一杯になって店を出て、その場で解散した。  夏の時期でもさすがに外は暗くなっていた。俺は自販機の明かりに気づいてジュースを買う。ペットボトルの落ちてくる音が暗闇に響いた。  半分くらい一気に飲む。 「好き……」  口に出してみるとさらに違和感を覚えた。  なんで引っかかるんだろう。この違和感は何だ。  俺はずっと依が好きだ。今更、何でこんなモヤモヤが出てくるんだ。  分からない。  街灯の少ない道を一定のペースで走っていたけど自然とペースが上がっていって、家に着く頃には激しく息を切らしていた。

ともだちにシェアしよう!