21 / 161

航-3 逃げ場無し

「コイツとは小学から一緒だけど、ほんとずっとこんなだぜ?」 「端的に言うと、うるさい奴」 「ヒドイ言われ(よう)! 目の前にいるのに!」 「でも憎めないよな、面白いし」 「やったーっ」 「単純な奴よ」 「ぎゃんっ!」  オレをクラスのみんなに説明してくれてるこの二人は、幼馴染のまーくんと、みーちゃん。一緒にいて楽しいお友達。  でも、オレはそんな二人にも言っていない。  優しい人たちだから、カミングアウトしてもきっと嫌な顔とかしないだろうけど。  自分の性的趣向がおかしいものと感じたことはない。好きになった人を好きでいるだけだし。 ただ、オレが臆病なだけ。秘密の淡い片思いでいるのが一番良いんだ。このままずっと楽しい状態で居たいから、言う必要が無いんだ。好きになった相手にも。 「……なんで。わかるの……」  もう顔を見れなくて、いつもの調子になれなくなって、俯いたまま聞いた。 「あ、やっぱりそうなのか」 「……えっ」  「確証は無かった」と言って平然としている。お見通しの様に言った台詞は罠だったのか?  オ、オレが今とぼけて否定してればバレなかったのか。  自分からバラしちゃったのか。 「なんというこ──」  ポンッといい音がして、大声を出そうとした口を手で塞がれた。  触れている感触に驚いて、開いたままの口を閉じることができない。先生は静まった様子を見ると手を離した。 「そういう事だから、また家でな」  そう言いながら立ち上がってドアを開けて出て行った。開いた口が塞ぎきらない。  そういう事だから?  どういう事だから?  家に、帰りたくない。  そうだ、旅に出よう。どうせそろそろ夏休みだし。  あっ洗濯物干しっぱなしだった。梅雨の時期に外に干したオレのバカ。 「今日はいつも以上におかしいな、航」 「梅雨にやられたのよきっと」  洗濯物がやられました。  机に突っ伏してるオレを心配してくれる二人はやさしい。内心必死にすがる思いで、やんわりおねだりしてみよう。 「ねー、みーちゃんとこにお泊りしていい?」 「そっちに行けば?」 「俺ん家これ以上子供増えると手に負えんわ」 「私も普通に面倒」 「正直でよろしい! 好きっ!!」  家に帰るしかない。  洗濯物はびっしょりと濡れていた。洗い直そう。  ……先生は多分残業あるし、来るのは遅いはず。とりあえず部屋を片付けて、ご飯でも作ろう。  そういえば荷物を送ったとか言ってたな、と思い出した矢先、インターホンが鳴った。大きなダンボール一つと、黒いキャリケースが一つ来た。 「……少なくない?」  口に出るほどそう思った。オレの家っていうか部屋が居間とチッキンルームだけの狭さだし、そんな持ってこられても困るけど。  そう、狭い。キッチンルーム以外に部屋は一つ……。  ……一つの部屋で一緒に寝るの……?

ともだちにシェアしよう!