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航-3 逃げ場無し
「コイツとは小学から一緒だけど、ほんとずっとこんなだぜ?」
「端的に言うと、うるさい奴」
「ヒドイ言われ様 ! 目の前にいるのに!」
「でも憎めないよな、面白いし」
「やったーっ」
「単純な奴よ」
「ぎゃんっ!」
オレをクラスのみんなに説明してくれてるこの二人は、幼馴染のまーくんと、みーちゃん。一緒にいて楽しいお友達。
でも、オレはそんな二人にも言っていない。
優しい人たちだから、カミングアウトしてもきっと嫌な顔とかしないだろうけど。
自分の性的趣向がおかしいものと感じたことはない。好きになった人を好きでいるだけだし。
ただ、オレが臆病なだけ。秘密の淡い片思いでいるのが一番良いんだ。このままずっと楽しい状態で居たいから、言う必要が無いんだ。好きになった相手にも。
「……なんで。わかるの……」
もう顔を見れなくて、いつもの調子になれなくなって、俯いたまま聞いた。
「あ、やっぱりそうなのか」
「……えっ」
「確証は無かった」と言って平然としている。お見通しの様に言った台詞は罠だったのか?
オ、オレが今とぼけて否定してればバレなかったのか。
自分からバラしちゃったのか。
「なんというこ──」
ポンッといい音がして、大声を出そうとした口を手で塞がれた。
触れている感触に驚いて、開いたままの口を閉じることができない。先生は静まった様子を見ると手を離した。
「そういう事だから、また家でな」
そう言いながら立ち上がってドアを開けて出て行った。開いた口が塞ぎきらない。
そういう事だから?
どういう事だから?
家に、帰りたくない。
そうだ、旅に出よう。どうせそろそろ夏休みだし。
あっ洗濯物干しっぱなしだった。梅雨の時期に外に干したオレのバカ。
「今日はいつも以上におかしいな、航」
「梅雨にやられたのよきっと」
洗濯物がやられました。
机に突っ伏してるオレを心配してくれる二人はやさしい。内心必死にすがる思いで、やんわりおねだりしてみよう。
「ねー、みーちゃんとこにお泊りしていい?」
「そっちに行けば?」
「俺ん家これ以上子供増えると手に負えんわ」
「私も普通に面倒」
「正直でよろしい! 好きっ!!」
家に帰るしかない。
洗濯物はびっしょりと濡れていた。洗い直そう。
……先生は多分残業あるし、来るのは遅いはず。とりあえず部屋を片付けて、ご飯でも作ろう。
そういえば荷物を送ったとか言ってたな、と思い出した矢先、インターホンが鳴った。大きなダンボール一つと、黒いキャリケースが一つ来た。
「……少なくない?」
口に出るほどそう思った。オレの家っていうか部屋が居間とチッキンルームだけの狭さだし、そんな持ってこられても困るけど。
そう、狭い。キッチンルーム以外に部屋は一つ……。
……一つの部屋で一緒に寝るの……?
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