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航-4 一つ屋根の下

 二階建てのアパートにオレの住む部屋は二階の角で、玄関入ってすぐにキッチンとトイレ、風呂があって、仕切りを設けた先に六畳の部屋がある。 「い、いや! キッチンちょっと広いし、オレはここで寝よう」  オレやさしいね。  自問自答はただの現実逃避だ。もうすぐ現実がやってくる。  でも、一人ご飯を食べ終わっても来なかった。時計の針は八時を過ぎている。  このまま早々に寝てもよろしいかな、と思った矢先、鉄筋製の階段を踏む足音が近づいてきて、鍵を開ける音もした。 「えっ」  そのままドアが開いて、先生の姿が部屋の明かりで照らされた。床に座り込んでいるオレを見つけると、伏せていた目を起こした。 「お邪魔します」 「な、なんで鍵……」 「合鍵を貰っておいた」 「本当に用意がよろしいことで……。えーと……、ご飯は、まだだよね?」 「あぁ、忘れていた。これから何か買って…」 「つ、作ってあるけど?」  玄関から動かず、そのまま出て行こうとしたから呼び止めるように言った。先生は振り向くと、ちょっと意外そうな顔をして目を泳がせた後ドアを閉めた。 「そうか。くれるか?」 「う、うん……」  なんだろう。問答無用でズカズカと来たのに、遠慮されるとそれはそれで困ってしまう。  ご飯を食べて、荷物を整理して、その間ほとんど話さなかった。オレは何を話していいかも分からないというより、先の事で頭がいっぱいだった。部屋が見つかるまで泊まるって、どのくらいなんだろう……。  「風呂借りるぞ」と言うや否や、部屋の時点で脱ぎ始めたので驚いて叫んでしまうと「うるさい」と言われた。  初心ではないけど、それでも好きな相手だと、ね。白くて綺麗でそこそこ引き締まっていて良い体してました。ありがとうございます。  ついに布団を敷いて寝るところまで来てしまった。  いそいそと自分の布団を運び出そうとすると、「そこまで狭くないだろう」と止められて結局一緒に並んで寝ることになった。嗚呼、神様。 「そこまで意識されると、俺はどうすればいいんだ?」  肘をついた手に頭を乗せて、こっちを向かれる。結んだ髪を下ろしていて、余計色っぽい。 「さっさと寝てくださいっ!」 「そうか、おやすみ」  呆気なく後ろを向いて布団を被って寝た。大人の余裕なのか、なんだあの態度は。ドキドキが止まらない。苦しい。  寝静まった背中をじっと見つめてみる。色々忙しなかったけど、三年振りに見た姿だ。雰囲気は変わっていない。  いらない気持ちがどんどん湧いてくる。 「おやすみなさい……」  起こさないように静かに言った。

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