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航-5 天国感と地獄感

 カーテンが勢いよく開かれて一気に光が差し込んだ。むくりと起き上がって目をこする。いつ寝付いたか分からないけど体が重くて寝足りない。 「おはよう」 「おはよー……ヴァッ!!」 「うるさい」  鐘人さん……じゃなくて、先生がいる。寝起きにこの人の顔を見れるなんて。 「夢だけどぉ夢じゃなかったぁ……」 「早く布団片付けて顔を洗って来い。飯が腐る」 「そんな大げさな」  覚めてきた目で見渡すと、先生の布団は隅に寄せられていて、キッチン側に置かれたテーブルには食事が並べられていた。サラダとパンがある。その方へ行く先生を見ると、髪を緩くお団子にしていた。それも良いな……。 「ご飯、ありがとうございます……」 「厄介になるから食費や生活費もその分協力する」 「あ、はい……」  しっかりと居候する気なんですね。  ふとメールが来て、父から先生についての説明があった。今更だよパピー……。適当に返事を送った。  一緒に登校するのは流石にイヤなので、オレは先に、いつもより早く家を出た。  先生の授業を受けている時チラッと様子を見たけど、何事もないように普通だった。いや、まぁそうだろうけどさ。でも授業が終わった後、生徒指導室へ呼ばれた。 「お前、ちゃんと勉強してないんだってな」 「えっ」 「成績が悪すぎる。なのに追試だけは満点って……、どういう事だ?」 「えぇーとそれは……」  予想外のところを突かれて思わず焦った。誤魔化すような笑顔をしてみせそっぽを向く。  オレは勉強が分からない訳じゃなく、ただ面倒くさがってしないだけ。いっくんと一緒の時は不思議と楽しくて捗ってるけど。 「……一応、親御さんにも宜しく言われてるからな。やるぞ」 「な、何を」 「勉強に決まってるだろ」 「わぁ……」  久々に再会して間もなく、この人はオレが初めて見る鬼の顔になって勉強を強いるようになった。それからはもう、色んな意味で先生から逃げ回っている。  どんなに逃げても捕まえてくる。オレの気持ちを分かってるくせに、引っ越す気もないし、大人のズル賢さと余裕でオレの反応を見てくる。本当に勘弁してほしい。  今日も補習だけど、本来来るはずの先生の代わりにこの人が来た。また二人きりだ。このクラスなんで補習の子いないんだろう。優秀か。 「なんで先生が来んの?」 「愛想が無くなったな。俺が相手だとお前が真面目に受けるから、だそうだ」 「……」  そうだ、早く終わらせちゃおう。晩ご飯まで外に居よう。  不貞腐れてペンを動かし始めたのを見て、先生は監視の目を逸らした。  一階の窓際だからか、外の音がよく聞こえる。蝉の声、風に吹かれる葉音、運動部の子達の走っていく足音、ペンの走る音も鮮明に。  オレってやる気になればこんなに集中できるのか。  やればできる子!  気分が乗ってきた。本当に早く終わらせて、外へ遊びに行こう。自分の口角が上がっている事を自覚しながら問題に集中した。  書ききったプリントを目の前に掲げた。できた!!  ふと隣の存在を思い出して向いてみると、嬉しそうな、誇らしそうな顔をして笑っていた。よしよしと言わんばかりに頭を撫でられる。 「良く出来ました」  プリントで顔を覆う。クシャクシャにしてしまった。

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