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航-9 逃げ切るまでのひととき

「なんか……、すごい勢いで関係が進んだ気がする……」  先生は立ち上がって服を着始めていた。オレの独り言を聞くと、Tシャツを取ってこっちに投げ渡してきた。顔面でキャッチしました。 「──俺は長かったと思うが」 「え? ……歳だから時が経つの早いとか?」 「アホ」 「ムキャーッ!」  じゃれて場をごまかしてシャツを着て、裾を伸ばしつつ立とうとしたら目が合った。先生は察したようで視線を下に落とす。 「もう一回す──」 「トイレ行ってきますッ!!」  駆けて勢いよくドアを閉めた。  ……先生と、してしまった。合意の上だけど。  先生の言った意思というのは本当に本当だろうか。オレの側に……ずっと……。  ひと時だけ、素直に喜んでもいいだろうか。ひと時だけでも浮かれていたい。  そうだ、いっくんに聞いてほしい。最近は会えていない。元気かな、夏バテしてないかな。 会いたいな。  例のごとく先に家を出た。  薄く雲がかかっていて日差しは柔らかく、風も吹いて丁度良い天気だった。気づけばもうお盆の時期を過ぎている。オレの夏休みが勉強漬けで終わるのを感じると、足取りが重くなった。  そして足が止まる。  今日って何曜日だっけ。 「日曜だな」  部屋でゆったりと座っていた先生は、戻ってきたオレを見てコーヒーを片手にそう言った。 「おしえてよっ!」 「偶然だが、休みで良かっただろう?」  先生は首を傾けてそこを指差してみせた。  ハッとして洗面所の鏡を覗きに行くと………、なんか色々あった。体の方にも……。しゃがみ込んで今更首を隠す。恥ずかしいどころでなく体が熱くなる。 「付けすぎだろッ!!」  こちら、天四航。聞こえますか。  この幸せな時間はいつまで続いてくれますか。  いつまで逃げ続ければいいですか。

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