27 / 161
航-9 逃げ切るまでのひととき
「なんか……、すごい勢いで関係が進んだ気がする……」
先生は立ち上がって服を着始めていた。オレの独り言を聞くと、Tシャツを取ってこっちに投げ渡してきた。顔面でキャッチしました。
「──俺は長かったと思うが」
「え? ……歳だから時が経つの早いとか?」
「アホ」
「ムキャーッ!」
じゃれて場をごまかしてシャツを着て、裾を伸ばしつつ立とうとしたら目が合った。先生は察したようで視線を下に落とす。
「もう一回す──」
「トイレ行ってきますッ!!」
駆けて勢いよくドアを閉めた。
……先生と、してしまった。合意の上だけど。
先生の言った意思というのは本当に本当だろうか。オレの側に……ずっと……。
ひと時だけ、素直に喜んでもいいだろうか。ひと時だけでも浮かれていたい。
そうだ、いっくんに聞いてほしい。最近は会えていない。元気かな、夏バテしてないかな。
会いたいな。
例のごとく先に家を出た。
薄く雲がかかっていて日差しは柔らかく、風も吹いて丁度良い天気だった。気づけばもうお盆の時期を過ぎている。オレの夏休みが勉強漬けで終わるのを感じると、足取りが重くなった。
そして足が止まる。
今日って何曜日だっけ。
「日曜だな」
部屋でゆったりと座っていた先生は、戻ってきたオレを見てコーヒーを片手にそう言った。
「おしえてよっ!」
「偶然だが、休みで良かっただろう?」
先生は首を傾けてそこを指差してみせた。
ハッとして洗面所の鏡を覗きに行くと………、なんか色々あった。体の方にも……。しゃがみ込んで今更首を隠す。恥ずかしいどころでなく体が熱くなる。
「付けすぎだろッ!!」
こちら、天四航。聞こえますか。
この幸せな時間はいつまで続いてくれますか。
いつまで逃げ続ければいいですか。
ともだちにシェアしよう!