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依-15 夏と海

 夏道に海へ誘われた。本当は俺から誘うつもりだったけど、夏が終わる前に行こうと楽しそうに言ってきたのでそのまま了解した。  もう遊泳禁止にはなっているが、その分人が居ないので二人きりで行くには丁度良かった。  点々と流れる雲が、時折強い日差しから守ってくれて、潮風は心地良く感じられる。波打ち際に沿って並んで歩いて、寄せては退いて素足を洗って行く水を楽しんでいた。 「本当ならもっと早く来たかったんだけどなぁ。泳げるし」 「タイミング合わなかったからね」 「でも結構冷たくて気持ちいいな!」 「うん」  夏道は大げさに水飛沫を立てながら走って行き、振り向いて笑ってみせた。俺はゆっくりと歩いてあとを追う。夏道は足先で砂浜に落書きしたり、砂をかいて小山を作り連ねたりして遊び始め、俺は体育座りをしてその様子を眺めた。飽きた頃に止めて、ついでの運動なのかランニングまでし出したので、ほんとあいつ良く動くなと感心する。  しばらくしてやっと満足したのか、俺のところまで戻ってきた。 「喉乾いた」 「自動販売機なら、向こうにあったよ」 「買ってくる。何がいい?」 「水」  自分の財布から小銭を手渡しながら返事をする。流石に疲れたのか、足取りがおぼつかない姿には少し笑った。  風や波打つ音に耳を澄ませると心地良かった。  隣の存在も近く、幸せな時間に浸ってぼーっとしていると夏道の手が頭に触れた。乱れた髪を直されたあと、ポンポンと撫でられた。……撫でるのは要らないだろう。  やはり顔を隠したくて膝に乗せていた腕に顔をうずめる。こっそり様子を見ると海の方を向いており、こちらの視線には気づかないのでその横顔を見つめた。  夏道が隣に居る……。 「帰るか」 まだ夕方前だが、そう言って立ち上がるとズボンについた砂をはたいた。名残惜しいが、俺も続く。また一緒に来ればいい。 「また来ような」  そう言ってくれたのが嬉しくて、微笑いながら小さく返事した。  帰りのバスの中、夏道が寝たので此処ぞとばかりに眺めたり、自分の肩に頭を寄りかからせたりして楽しんだ。今日は久々に沢山見れたと満足すると視界がぼんやりしてきて、やがて俺も眠ってしまった。 「──依」 「……ん…」 「家着いた」 「へ……?」  体を起こそうとしたらバランスが崩れて、思わず目の前の体にしがみついた。  ……おんぶ……。男子高生がおんぶされている……。 「お、下ろして」 「お前起きなかったから」 「ありがとうございましたっ、下ろしてよっ」  恥ずかしくて暴れると夏道は嫌々ながら下ろしてくれた。  こいつの背中をしばし堪能すべきだったか。何故俺は眠ってしまったんだ。  顔を覗かれて笑われた。 「明日なんか予定ある?」 「……特には」 「じゃあまたデートしようぜ」 「デ、デートって……」  目を細めてイタズラに笑うと首筋を撫でてきた。 「首はやめろ……っ」 「付き合ってるからな、俺ら。独り占めできて嬉しいよ」  そう言えばそんな関係だったと忘れていた。歯の浮くような台詞を聞かされた気がする。 「人の気も知らないで……」  熱い首を押さえながら、家路を走っていく背中に向けて吐く。長かった一日の余韻は一夜続いて眠れなかった。

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