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依-16 ドタキャンと友の笑顔

「いっくん何にする〜?」 「カフェラテのやつ」  今の自分の言葉で、前にそれを夏道が買って来て一緒に飲んだのを思い出した。男が買うイメージが無いので俺は積極的に買う気はないのだが、こいつは楽しげに種類の豊富なメニューを眺めている。悩んだ末、結局定番といわれるタピオカミルクティーにしていた。 「オレこれ好きなんだ〜〜。小さい白玉みたいで」 「黒いけど」 「黒玉!」  俺はまた勢いよく吸いすぎて口の中をいっぱいにしてしまうけど、確かにこの食感は嫌いではないかな。今回はちゃんと咀嚼してみた。  飲みながら、ばったり会った時の航の言った事を思い返す。  ──「オレね、ゲイなんだけど好きな人いるの! んでね、その人と付き合えることになったの!」  声をかけられてすぐその台詞が飛んできて、俺は驚くしかなかった。話の主旨のみを言ってきた様だから内容は理解できたが、あまりにも唐突で。ちゃんと話を聞いた方がいいと思い、誘われるがままこのカフェへ来た。  今日は、夏道と図書館で勉強をする予定だった。さっきトイレで電話して、訳を言って謝っておいたけど、向こうの声はすごく不機嫌だった。理解してくれたものの、後で様子を見に行かないと……怖いな。 「……前にさ、言ってくれたじゃん? 言いたいことあったら聞くって」  一人で苦笑いする自分の顔は見られていない。俺と同じく航も俯き加減で、ストローを回しながら話し出した。 「うん」  その事は俺も気に掛けていたけど、やっぱり結構悩んでたんだな。  ……ゲイの話をした時、こいつはどう思ってたんだろう。 「あの時はまだ……、言いにくくて。正直今もちょっと、こわいんだけど……」 「うん」 「あっゲイだから言いにくいとかじゃなくてね、また別で、思うところあって」 「……ゆっくりでいいよ」  航が言いたいと思っているのは伝わってくる。けどまだはっきり解決した訳ではなさそうだ。航は、静かに聞く俺を見て照れくさそうに笑った。 「まだ怖いけどね。好きな人が居るって、言いたくなったんだ。付き合えることになってすごく嬉しくて」 「うん」 「だから、いっくんに言いたくなったんだ」 「うん」  「よかったね」と言うと「うん!」と笑って、それからは相手の何処が好きなどのノロケ話が始まった。デレデレと楽しそうに話す姿を見ていると自然と俺も微笑っていた。  相手についてはやんわりと避けていたので詳しくは分からない。「面倒な関係」と言うが、ちゃんと両思いらしい。  互いの飲み物もなくなって氷も溶けきった頃に別れた。「聞いてくれてありがとう」と、航は終始笑顔だった。 「オレはいっくんのこと大好きだからね!」 「うん」  こちらに大きく手を振りながら駆けて行った。  詮索する気は無いし、自分の解釈で勘ぐるつもりも無い。航の言葉で航が聞かせてくれる事だけを聞く。あいつはそのうち話してくれそうな気がするから、待っていようと思った。  俺は……、何処にも出しようのない気持ちも言える友達ができて救われている。  航もそうかな。役に立てているなら、嬉しいな。

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