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依-17 夏道の家

 裾を、つままれている。 「……ごめん」 「……聞いた」 「俺も気にかけてたから、話し込んじゃって……」 「それも聞いた」  んん……。かわいい……。  俯き加減で不貞腐れている。ほんとでかい子供だな。…いや、あの後家まで会いに来て謝罪しているのでこんな事を考えてはいけないんだが。ニヤける口元は手で隠している。ドタキャンは本当に申し訳ないです。  外はもう暗く、部屋から漏れる少ない明かりのなか玄関で二人突っ立っていた。しばらく沈黙が続いて、夏道がやっと目を合わせてくれたかと思うと、徐ろに擦り寄って抱き付いてきた。い、犬……。 「……今日姉貴いないんだけど」 「え……、うん」 「泊まってく?」  耳元でボソボソ呟かれるとこそばゆい。  こいつの家は団地の一階で、母親とお姉さんとの三人暮らしだ。部屋数が少なくてお姉さんと一つの部屋を共有している。小さい頃に俺も入って川の字で寝かせてもらっていたのを思い出した。今のデカさのこいつと一緒は流石に狭いだろうと思っていたけど、もう少ししたら家を出ると聞いた。そうか、今日お姉さん居ないのか。母親は夜勤もしてるし、夏道一人だけだな。  え?  泊まるかって? 「依」  現実逃避していたが、有無を言わせずの目で見つめてくるこいつから逃れられそうにない。 「着替え、無いし……」 「俺の使えばいいさ」 「デカイだろ」 「小さいよりはいいだろ」  掴まれていた腕がそのまま引かれて、玄関のドアは閉まった。  ──「いっくんも言ってみれば?」  航と別れる時、急に俺の話をされた。 「何を?」 「好きって」 「は……」 「オレ、つい自分からバラしちゃったんだよね。いっくんもさ、不味いタイミングでバレるよりは自分から言っちゃった方がいいと思ってさ」 「……なるほど」  確かにそうかもしれない。寧ろ今までバレてないのがおかしいくらいだけど、本当の気持ちを知られたら……、関係は一気に変わってしまうだろう。 「肝に銘じとく」 「ずっと言わないつもりなの?」 「……分からない」  いつか言ってしまうかもしれないけど、今はそのつもりは無いんだ。  だからこれからもバレないようにする、そう肝に銘じた。渡された着替えを握りしめて、覚悟を決める。  着てみるとやはりぶかぶかだった。  夏道の服………。 「臭かったか?」 「えっ いや、別に……」  普通に嗅いでしまった。

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