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夏道-8 こぼれた思い
石階段を登り切って集合場所の丘に着いたが、誠と大護しか居なかった。
「あ、夏道が来た」
「おう。みんなは?」
「集まる気無いわ〜アイツ等。って、その人……」
俺の後ろに隠れるようにしていたけど、誠に気づかれて出てきた。繋いでいた手は無理やり離された。
「こんばんは……」
「ばんはー。恋人さんも一緒だったんだな」
「えっ?」
依の視線が素早く流れてきた。「うん、コイツ等にも言ってる」という風に軽く頷いてみせたら眉を潜めた。
「もうちょい前に行こっか、そろそろ上がるから。ここ良く見えるんだよ」
誠が気を効かせたように促すと、依はそれについて行った。手のひらの熱が冷めていくのを感じてズボンのポケットに入れた。
柵の所まで行って横並びになって間もなく、ドンと大きく花が咲いた。
照らされた横顔から、その手元に視線を落とす。徐に掴んで自分のポケットに一緒に突っ込んでみた。もちろん驚いて引っこ抜かれそうになるけど。もう少しだけ、この手の熱を感じたかった。
俺の反対隣に誠達が居るけど、関係は知ってるし問題ないだろ。力んでいる手を中で握り直すと、依は観念したように肩を落として顔を背けた。
「お前、ほんとワガママ……」
大きな音にかき消される声でもそう呟いたのが分かった。耳まで赤く見えるのは光のせいか、俺は最後まで花火は見なかった。
「明日から学校だぞ。部活のうえに授業詰めとか地獄だよな」
「焼き鳥まだ売ってるかな」
「お前どんだけ食うんだよ。しかも焼き鳥だけ」
駄弁る二人の後ろについて、階段を降りて行く時もずっと手を繋いでいた。依は静かだった。鳥居前で二人と別れて依の家路を歩き始めると、「もういいだろ」と言われて離された。先に行かれても動けずに、空いた手を見つめた。
「なぁ、依」
「何」
「俺って変かな」
俺の方を向いたけど黙りこくっていた。側まで行ったものの、俺もなんて言っていいか分からない。さっきまで強引にしてたのに、今は伸ばそうとする手も出し渋る。自分が何をしたいのかも分からなくなって、依の答えが欲しくなった。
「……ワガママだよ」
かろうじて聞こえた声に顔を上げると、依は眉尻を下げて俺の顔を見ていた。言葉を失っていた自分の口がやっと動いた。
「好きなんだ。依のこと」
「……うん」
「もっと一緒にいたいんだ」
「……うん」
依の方から手に触れてきて、繋いでくれた。
「一緒に帰ろうよ」
ゆっくり手を引かれて、並んで帰った。依から繋がれた手が一番落ち着けた。離れていかれないように握り返す。
増していく気持ちが、ただの「好き」だけに収まらなくなっている気がした。
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