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誠志郎-1 焼き鳥
「あーッ! もうさっ! ずっと手繋いでたの見ただろ? 見たくなくても見えるんだよイチャついちゃってまあ!」
「一本食う?」
「いらねぇよ、ていうかどんだけ買ったんだよ金持ちか」
「売れ残り格安だった」
「むしろ売れ残りあったのがおかしいくらい食ってるだろ。いや話ズレただろ!」
もう五十本以上は食ってんじゃないの。手に持ってる串の束すごい太さになってるわ。いや、そうじゃなくて。
ホント腹立つ。マジで付き合ってるし完全に両思いっぽいし……。ていうかアイツ、男イケたのかよ。野球馬鹿のくせに恋愛まで謳歌しちゃってまあ、青春ですこと。
こんな事になるならさっさと言っちゃえばよかったのかな。言う前に失恋とか虚しすぎるわ。この気持ちは何処に投げたらいい。誰がキャッチしてくれる。
「今からでも言えば」
「はあ?」
「そして完全に粉砕されればいい」
「お前ひっどい」
せめて「玉砕」と言えよ。粉砕とか風で飛ばされて消えるじゃねぇか。
アイツと、大護と、中学から同じ野球部で一緒に戦ってきた。
最初からただの部活としてやっていくつもりだったけど、本気でやってる二人と居るうち俺も本気でやろうと思った。コイツ等を勝たせて上へ連れて行ってやりたいと思った。高校の最後まで。
この気持ちは、その最後の日にでも伝えようと目論んでいた、のに。
「食う?」
「……食う」
靴音と虫の声だけが響いている。空は暗くて、住宅の明かりで星はほとんど見えない。仰ぎ見ても虚しさが募るばかりだ。
「冷めてるわぁ」
「冷めてもウマイ」
こんな気持ちになる程の想いでは無かったはずだ。ずっと内に秘めていて、二の次三の次くらいのもので。
けど、二人が並んでいる姿を目の当たりにして……、嫌でも自覚してしまった。
「俺、アイツのこと好きだよ」
「知ってる」
「……焼き鳥、ずっと好きだよな、お前。飽きないの」
「うん」
重い足を何とか動かして亀のように歩く俺に、隣の奴は平気な顔で合わせて付いてくる。祭りも終わって、夏休みも終わる。俺の潜めていた想いも最後まで出て来ずに終わるんだ。
そうだとしても、野球をやっている間は一緒にいれるだろうとか思ったりしている。嗚呼、自分に腹が立つ。情け無い。
「野球やりてぇ」
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