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依-24 文化祭 一日目

 この学校の文化祭は二日間あり、一日目に校内開催、二日目に一般開放をして片付けの後、後夜祭が行われる。  今日はその一日目。 「良い……」 「いいわ……」 「色気あるよね……」  執事とメイドの撮影が行われており、クラスの注目を集めていた。航は楽しげに俺と肩を並べてピースサインをしている。俺は恥ずかしくて顔を覆うしかない。  焦茶色の長袖ロングスカートに、襟とカフスとエプロン、ホワイトブリムと言うらしい頭に付ける物は白。細やかにフリルも付いているけど、レトロを感じる清楚で上品なデザインだった。  思っていた程ではなくて少し安心した。それでも恥ずかしいけど。  航は赤に近い茶髪なので、黒色のセミロングのかつらを被らされている。 「かつら似合うね」 「ウィッグと言ってッ!」  来年の文化祭にはこれに手を加えて使い回すらしい。もう同じクラスにならない事を祈る。  文化祭が始まると各々配置に付き、当番でない人達は好きな所へ向かって行った。俺と航は先に校内を回って宣伝しながら客寄せをする。  すれ違う人みんなの視線を感じた。看板を持ちつつ俯きながら歩く俺とは対照的に、隣の人は嬉々として宣伝している。 「よく平気でいれるな……」 「普段しない事するの楽しいじゃん! いっくんの可愛い姿見れるし〜。後で俺の携帯でも一緒に撮ろうね!」 「別にいいけど……」  こいつと居ると少しだけ気が紛れる。俺も文化祭を楽しみたい。 「おー、可愛いな」  前方からやって来る声に顔を上げると、ニヤニヤと笑っている夏道が居た。目前で立ち止まって、上から下までじっくりと眺めてくる。思わず一歩退く。 「……暇ならうちに金落としていけよ」 「言い方」  顔を隠す代わりに空気を変えようと言ってみると、二人に笑われた。それでも視線を放してくれないので落ち着かない。  夏道が「俺も一緒に回る」と言い出した。  俺の忌避する声と航の喜々とした声が同時に上がる。 「じゃあいっくん達はこっちの棟ヨロシク! オレあっち回って来るからーーっ」  口を出す間も無く手を振りながら駆けて行ってしまった。  お前がいなきゃ意味無いのに……!!  変な気は使うなよ、これじゃあ本当に恥ずかしいだけじゃないか……っ!  悲壮感を漂わせているのに構わず、残る奴は「行こうぜ」と俺の腰に手を回して促してくる。仕方なく看板を面前に立てて歩き出した。 「やっぱすげぇ見られてるな。ご主人様とか言うの?」 「……接客で」 「お前棒読みで言いそう」  夏道は視線を落としてこちらを見やり、目を細くした。 「似合ってるよ」 「どうも……」  全く嬉しく無い。  しばらく歩いていると、周りからの視線を感じなくなった。  ちらりと隣の顔を見上げると、無表情で前を見ていた。その所為だろう。客引き効果は無くなっているが、気持ちは和らいだ。  というか何で無表情なんだ。つまらないなら好きな所へ行けばいいのに。  静けさが増して再び看板を下ろして見れば、随分と端の方まで来ていて回りきっていた。次は接客だけど、これで教室へ戻れる。  安堵しながら踵を返した時、手を引かれて近くの部屋に連れ込まれた。  鍵が閉まる音を聞きながら俺は唖然としていた。

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