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誠志郎-3 文化祭 一日目「王子と秘密の林檎-上」
「いいか、お前達! 必ず姫を小屋まで誘い込むのだ! 怪我はさせてはならぬぞ!」
「自分で嗾 けるのに、言ってる事が支離滅裂ですね、王子」
「いいからさっさと持ち場につけっ」
「はぁ〜〜い」
集まっていた小人達が森の奥へ散らばっていく。
踵を返して、胸に手をやる。
「必ず、必ず手に入れてみせるぞ……!」
「──王子は姫を手に入れようと必死でした。そんな姿を見ていた小人の一人が、やれやれと肩を竦めていました……──」
ゆっくりと照明が消えた所で語り手が話す中、俺は舞台袖へ捌けた。
次の出番まで休憩する。
演劇部が使っている物をほぼそのまま間借りしているから、衣装やセットの造りはしっかりしている。それはいいけど、まだ暑い時期に長袖長ズボンの衣装は暑苦しい。
首から垂れる汗が不快で拭っていると、ハンドタオルを差し出された。顔を上げて見ると、大護が素の串を咥えながらいつもの無表情で居た。
タオルを受け取って、汗を拭きながら呆れた眼差しを送る。
「もう食ってんのかよ」
「食う?」
「今は無理だろ。そこの団扇取って」
団扇で自分を扇ぎつつ、壁にもたれて舞台を眺める。
小人達はボロ布を被って驚かしたり、威張ったり威嚇して見せたりしている。当人達は本気でやっているがその様は可愛らしくもあり、姫も最初こそ驚いたがクスクスと笑いだした。諦めて姫と会話を始めると、素直に小屋へ誘おうとする。姫は快く受けて、楽しげにお喋りをしていた。
やがて小屋に着くと、散らかった部屋を見た姫が掃除をしたり、パーティーが始まってより賑やかになった。
そんな様子を、王子は窓からこっそり覗き見る。
出番だ。
端に窓のセットが追加で置かれると、俺は舞台へ上がった。
「よしよし、楽しんでいるな……! 良かった、良かった……」
「──王子は、姫の義母に捨てられた事情を知っていました。それを可哀想に思い、愉快な小人達に命じて姫を楽しませようと考えたのです。姫の喜ぶ姿を見ると、密かに安堵していました。我が物にしようと躍起になっていましたが、想いだけは純粋でした……──」
これだけ。すぐ捌けていく。
「王子って出入り多いよな」
「あぁ、姫に悟られないようにコソコソ様子見に行く感じだからな。ストーカーな気もするけど」
姫が寝静まると暗転して、再び出る。
今度は魔女も加わって小屋の外に集まると、コホン、と咳払いをして作戦会議を始めた。
「姫の気持ちが落ち着くまでは、ここで過ごさせる。むさ苦しく汚い場所だったが、姫のお陰で綺麗になった。お前達も清潔にして、姫を持て成すように」
ふと、黄色い帽子の小人が手を挙げた。
「王子も一緒に、姫と遊びましょうよ。好きなんでしょう?」
「い、いや。私はいい……」
魔女が徐に、持っていた籠から真っ赤な林檎を取り出す。
「時が来たら、ワタクシがコレをお姫様に食べさせるのですね……?」
「そうだ。……毒は、口付けをすれば消えるのだろう?」
「イッヒッヒッ……、勿論ですとも。王子様の想いは本物ですから、毒は有って無いようなもの……眠るだけですよ。口付けをすれば、目覚めます……」
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