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誠志郎-4 文化祭 一日目「王子と秘密の林檎-中」
「そんな危ない事までせずとも良いのでは? 安全といっても、姫が可哀想です」
「素直に好きと言えばいいじゃないですか」
青帽子の小人が手を挙げて発言したかと思うと、他の者も声を上げた。制する事なく、背を向けて語り出す。
「……私は、望んだものは何でも手に入る環境で育った。望めば何でも……。だが、人の心だけは違った。この立場でも、金を積んでも、高価な物を差し出しても手に入らないのだ。それでも私は……、姫が欲しくてたまらないのだ」
俯いて、空の手のひらを見つめる。
「ただ想いを伝えたところで、どうなる」
この台詞で、俺は一瞬言葉を詰まらせた。
「……私の立場を知れば受け入れてくれるやも知れん、でもそれは違う。それではダメなんだ。私は、彼女の心も欲しいのだ……!」
手を払う様にして振り返る。
「毒で眠ってしまった姫を、私が助けて感謝され、そこから一気に想いを育んでいくのだ」
「恩着せがましいにも程がある」
「回りくどいよね〜〜」
ツッコミされると、そのまま暗転した。
この王子威厳も何も無いな。
その後、王子は質素な服に着替えて木こりに扮して様子をこっそり眺めていたが、姫に見つかる。緊張でしどろもどろになりながらも、優しく声をかけてくれる姫のお陰で、ほんの少しだけ二人きりの時間を過ごすことができた。
そうして、運命の日が訪れる。
ベッドに横たわる姫を、小人達が囲んで覗き見ていた。
「ホントに眠っているね」
「叩いたら起きるんじゃないか?」
「こらっ、ホントにペシペシ叩くんじゃないよ」
「王子〜、出番ですよ〜〜。どうしてそんな隅っこに居るのですか」
「ほ、本当にするのか……」
「そう仕向けたのは王子ですよ? 早くキスしてくださいよ。姫を起こしてあげて下さい」
「……よ、よし……分かった」
……まぁ、本当にはしないけど。姫役の頬に手を添えて、口元を隠して顔を近づけるだけ。相手は閉じている瞼をピクピクとさせて顔が赤くなっちゃってるけど、俺は平然と顔を近づけた。
ゆっくりと離れて姫の反応を伺う。
起きない。
「……な、何故起きぬ。口付けをしたのに……。おい、 魔女よ! これはどういう事だっ!!」
舞台袖から魔女が杖を突いて現れ、嗄れた声を上げて気味悪く笑っている。
「ワタクシは何もしておりません……。王子様の想いが……届かなかったのやもしれませんねぇ」
「そんなはずは無いッ!! 私は……! 私は、姫を……!」
……アイツは見てないだろうな? 居ないことを切に祈りながら、客席の方を向いた。
「愛しているのだ……ッ!!」
……あ、ちょっと待って、居た……。
薄暗い体育館の隅にもたれ掛かって見てる。あ、目が合った。
今だけは、自分の視力の良さを恨んだ。
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