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誠志郎-5 文化祭 一日目「王子と秘密の林檎-下」

 頭が沸騰しそうだ……すぐにでも舞台から下りたい。 「姫はこのまま起きないのっ?」 「大変なことしちゃった……!」  俺の胸中は別だが、泣き出す者もあり皆狼狽えていた。  そんな中、姫がムクリと起き上がった。 「ウワァアアーーーッ!!!」  一斉に弾かれた様に驚いて腰を抜かして、魔女だけは笑っていた。  姫の瞼がゆっくりと開かれる。 「……それが、貴方様の本心なのですね」  頬を染めて目を細くした微笑みを、こちらに向けた。膝に手を付いて立ち上がると、姫の側まで駆け寄る。 「姫……! 良かった、無事で…起きてくれて良かった!」  興奮気味に迫った自分を抑えつつ、姫の顔をまじまじと見つめる。 「だが、一体どういう事だ……。いや、やはり、私の口付けで起きてくれたのか……?」 「いいえ? 元から、あの林檎に毒はありません。私が眠っている振りをしていただけです」 「なっ、なんだって!?」  目を丸くしていると、魔女が腹を抱えて甲高く笑い出した。皆がその方を向けば、目尻の涙を指先で拭いながら種明かしを始めた。 「イッヒッヒッ……お姫様の言う通り、毒なんてものは御座いません。ただの美味しい、真っ赤な林檎……。それを、お姫様に差し上げただけですよ」  魔女と姫を交互に見やる様子に、姫はニッコリと微笑んで見せた。 「実はワタクシ、お姫様と話をするうちに仲良くなってしまって。つい、入れ歯がポロッと落ちる様に全て話してしまったのです……ヒヒッ。すると姫が自分から、そうして欲しい、王子様のお気持ちを知りたいと言い出したので、こうなったと言う訳です」  姫はベッドから降りて立ち上がると、この手をとって熟視する。 「貴方様のお考えを聞いた時、有り難く思いました。木こりの姿でお話になられた時も、貴方様の優しさが伝わって、本当に嬉しかったのです。そして私も、貴方様の事を……。直にお気持ちを知りたく、騙す様な事をしてしまいました。申し訳ございません……」 「い、いや! 違うのだ、私のした事が悪かったのだ……。すまない、姫。どうか許してくれ……」  姫は微笑を浮かべた。 「いいえ。私は、許しません」 「エッ」 「責任を持って、私をお嫁さんにしてくださいっ」  両手を広げてにこやかに言い放った姿に、唖然とした後、照れた様に顔を隠した。そんな二人の姿を、小人達は笑ったり感激して泣いて喜んだ。 「──…王子は、改めて気持ちを伝えてプロポーズをしました。こうして二人は、末永く幸せに暮らしましたとさ…──」  最後は黒子も裏方もエキストラとなって、国民は二人を盛大に祝った。  その中に大護が居て、真顔で祝い言葉を言っているのを見た。  お前ホント楽な役取りやがったな……。  締めも終わり、最後に舞台袖へ戻れると大きく長い溜息を吐いた。舞台道具の椅子にドッカリと座ると、大護が俺に向けて団扇を扇ぐ。 「もうやだ、疲れた。色んな意味で……」 「夏道、居たな」 「お前も見えたか……」 「手振られた」  それはちょっと羨ましいな……クソ。俺はあれから客席の方を見れなかった。  二日目もやるんだろ、これ。面倒臭い……。  せめてアイツと同じクラスだったら、良かったのに。

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