50 / 161
誠志郎-5 文化祭 一日目「王子と秘密の林檎-下」
頭が沸騰しそうだ……すぐにでも舞台から下りたい。
「姫はこのまま起きないのっ?」
「大変なことしちゃった……!」
俺の胸中は別だが、泣き出す者もあり皆狼狽えていた。
そんな中、姫がムクリと起き上がった。
「ウワァアアーーーッ!!!」
一斉に弾かれた様に驚いて腰を抜かして、魔女だけは笑っていた。
姫の瞼がゆっくりと開かれる。
「……それが、貴方様の本心なのですね」
頬を染めて目を細くした微笑みを、こちらに向けた。膝に手を付いて立ち上がると、姫の側まで駆け寄る。
「姫……! 良かった、無事で…起きてくれて良かった!」
興奮気味に迫った自分を抑えつつ、姫の顔をまじまじと見つめる。
「だが、一体どういう事だ……。いや、やはり、私の口付けで起きてくれたのか……?」
「いいえ? 元から、あの林檎に毒はありません。私が眠っている振りをしていただけです」
「なっ、なんだって!?」
目を丸くしていると、魔女が腹を抱えて甲高く笑い出した。皆がその方を向けば、目尻の涙を指先で拭いながら種明かしを始めた。
「イッヒッヒッ……お姫様の言う通り、毒なんてものは御座いません。ただの美味しい、真っ赤な林檎……。それを、お姫様に差し上げただけですよ」
魔女と姫を交互に見やる様子に、姫はニッコリと微笑んで見せた。
「実はワタクシ、お姫様と話をするうちに仲良くなってしまって。つい、入れ歯がポロッと落ちる様に全て話してしまったのです……ヒヒッ。すると姫が自分から、そうして欲しい、王子様のお気持ちを知りたいと言い出したので、こうなったと言う訳です」
姫はベッドから降りて立ち上がると、この手をとって熟視する。
「貴方様のお考えを聞いた時、有り難く思いました。木こりの姿でお話になられた時も、貴方様の優しさが伝わって、本当に嬉しかったのです。そして私も、貴方様の事を……。直にお気持ちを知りたく、騙す様な事をしてしまいました。申し訳ございません……」
「い、いや! 違うのだ、私のした事が悪かったのだ……。すまない、姫。どうか許してくれ……」
姫は微笑を浮かべた。
「いいえ。私は、許しません」
「エッ」
「責任を持って、私をお嫁さんにしてくださいっ」
両手を広げてにこやかに言い放った姿に、唖然とした後、照れた様に顔を隠した。そんな二人の姿を、小人達は笑ったり感激して泣いて喜んだ。
「──…王子は、改めて気持ちを伝えてプロポーズをしました。こうして二人は、末永く幸せに暮らしましたとさ…──」
最後は黒子も裏方もエキストラとなって、国民は二人を盛大に祝った。
その中に大護が居て、真顔で祝い言葉を言っているのを見た。
お前ホント楽な役取りやがったな……。
締めも終わり、最後に舞台袖へ戻れると大きく長い溜息を吐いた。舞台道具の椅子にドッカリと座ると、大護が俺に向けて団扇を扇ぐ。
「もうやだ、疲れた。色んな意味で……」
「夏道、居たな」
「お前も見えたか……」
「手振られた」
それはちょっと羨ましいな……クソ。俺はあれから客席の方を見れなかった。
二日目もやるんだろ、これ。面倒臭い……。
せめてアイツと同じクラスだったら、良かったのに。
ともだちにシェアしよう!