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依-27 文化祭 二日目

 航が、今日一日交代無しで接客をするという罰を受けたので、俺は休んで遊び回っていいと言われた。  自業自得のそいつは駄々を捏ねて俺を引き止めたが、「俺もあいつと遊びたいし……」と、つい本音を漏らしてしまうと、深く共感されて放された。  航相手だと本音を言えてしまうのが、嬉しいけどとても照れくさい。手で顔を隠しながら教室を出て行く俺を、航は明るい声で送った。  足の向く先は一つだが、さて何処に居るのやら。  あれから結局会えず仕舞いで、今日もまだ見かける事すら出来ていない。いつもなら、嫌でもあいつの方から顔を出しに来るのに。  すれ違う生徒に、あいつを見ていないか聞いてみる事にした。 「あぁ、さっき体育館で見たよ」 「屋台の所にいたよ。あの人、大きいから見つけやすいよね」 「教室に戻ってたよ。サボってたくせに店番を打って出てた」 「夏道ならもう居ないよ〜。またどっか行ってるんじゃない?」  何処に居るんだ、あいつは……っ!  俺の体力を舐めるなよ…お前の半分くらいか以下だぞ……っ。  大きくて見つけやすいんだろう、見つかれよ……!  敷地内の端まで探しても見つからず、壁に手をついて、しばらく肩で息をしていた。  これだけ探しても見つからないのはおかしくないか。  考えにくいが……、俺、避けられてるのか……?  昨日の仕返しを思い出してみた。呆けたあいつは、ただ驚いていただけで、怒った様には見えなかった。  後からムカついて、仕返しの仕返しで俺を避けているのか?  子供か、と言いたいところだが、そうだったら困る。  あいつの方から付いて来るのが当たり前になって、俺から行く必要は無いと思うようになっている。こんなに探し回って夏道を追うなんて、初めて会った頃以来だ。  あの頃は自分がひたすら付いて回っていた。和かに微笑う俺を怪訝そうに見つめて、何も言わず前を向いて歩き出す背中に付いて行った。夏道は、時々視線を向けて俺が居るのを確認すると、少し嬉しそうな顔をして目を背けていた。  もうそんな風には出来ないんだ。  純粋な想いより、羞恥や不安が上回ってしまう。  壁に背を預けてその場にへたり込んだ。人の来る気配も無い静かな廊下で、目を閉じて体を休ませる。  模擬店とか屋台とか、一緒に回りたかったんだけどな。  どこに居るんだよ、お前。

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