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誠志郎-7 文化祭 二日目

「っだぁあーーッ! 無理ッ! もう二度としたくねェ!!」 「お疲れ」  二日目の公演も無事終わらせることは出来た。  隣の奴は最後まで楽そうで地味に腹が立つ。  舞台の片付けを終えて、みんなは残りの時間を楽しみに向かって行った。俺は鬱憤を晴らしたくて、更衣室に残って愚痴を吐いている。ベンチを独占して下着の白Tシャツと、短パン姿の解放感で気が楽である。  後夜祭では役者達でダンスをするとか。……いや、やりたくねぇな。主役だけど仮病使ってサボろう。 「誠って、やると決めたら、やりたくない事でも最後まで責任持ってやるよな」 「っ、なんだよ……、後夜祭までちゃんとやれってか……?」 「ファイトォ」 「マジで腹立つ……ッ」  俺の性格弄ばれてる。  嫌味な奴が側まで来ると、肩にかけていたタオルを取って、俺の顔の汗を拭ってきた。……だから、俺のオカンかお前は。 「あの林檎さ」 「は? 劇の話?」 「林檎じゃなくて焼き鳥が良かったな」 「……ビックリするくらいどうでもいいわ」 「お前はまだ告白しないの?」 「……」  終始一定のトーンで、爆弾を混ぜて投下してくるのはやめてほしい。  タオルを離した大護を静かに見上げる。  その面の下はどうなってんだよ……。 「……しねぇよ。少なくとも卒業するまでは……そう決めてんだし」 「……じゃあ、俺から先言うわ」 「は……?」  ガンを飛ばしてた俺に眉一つ動かさなかった大護の顔が、真剣な顔つきになった。 「俺は誠志郎が好きだ」  目が見開いて、口も少し開いてしまった。  コイツのタイミングは計れない。  俺の両肩に手を置いて、立ったまま見下ろしてくる。  そんな事しなくても分かってるよ。冗談じゃないことは。 「……知ってる」  知っていた。  コイツの、好きなものに対する反応は分かりやすいから。  いっつも引っ付いてくるし。同じ表情に見えて、俺を見る目が他人へ向けるものとは全く別だし。それに……、いや、何を言ったところで、俺は……。  逸らした目をもう一度だけ向けて、真っ直ぐ見上げた。 「俺は……、夏道が好きだ」 「……知ってる」  大護は目を細めて、口端を少しだけ上げた微笑を浮かべながら言った。  その表情には目を見張る。つられたように、俺まで笑いをこぼしてしまった。 「お前のその顔、レアだな……」  不意にタオルを頭に被せられて、汗で少し濡れている髪を拭かれた。わしゃわしゃと動かす手は、ゴツいくせに優しい。  大護の優しさは、時々だけど、申し訳なさで胸が詰まりそうになる。  悪いな、大護。お前の気持ちには応えられないよ。

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