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航-12 文化祭 二日目
今日は先生のところへ行けそうにないなぁと物思いに更けながら接客していると、お客の男子にスカートをたくし上げられた。
「ぎゃんっ! 何すんのさっ!」
「なんだ、短パン履いてんのかよ」
「当たり前じゃんっ、スースーするんだもんっ」
べーって舌を出して怒ってみせるけど、同席の人と笑ってからかわれた。
まぁ、オレもいっくんのめくって覗いたし気持ちは分かるけどさ。コーヒーではなく、いっくんにされたようにお盆でポコンと叩いて小さなタンコブをお出ししようか。
……いっくんも何かされちゃってたかな?
聞いてみたら、優美すぎて近づき難くて誰も手出ししなかったみたい。みーちゃんも気を回して守ってたとか。
いやオレはどうなのさッ!? って突っ込んだけど、いっくんが何もされてないならよかった。
メニュー覚えてなくて多方面から怒られちゃったけど、賑やか担当として頑張った。
いやぁ〜〜、罰と言われても、この二日間楽しかったなぁ。いっくんとの写真もたくさん撮れたし。
この服も体を回転させるとフワッとして面白い。女装は趣味でないし目覚める気もないけど、たまにこういうの着て先生と遊ぶのは良いかも。
にやけながら片付けをして反省の色が無い姿をみーちゃんに睨まれた……。
いえ、反省したからこそ、いっくんを引き止めなかったのよ。
今日はいっくん楽しめたかな?
後夜祭でもこの服を着てもらおうとかみんな言ってたから、戻って来ないだろうなぁ。オレもフケるし。
ちょっと期待してたけど、先生は最後まで来なかった。また何処かでタバコ吸ってるのかも。ちゃんと仕事してるのかな。人の事言えないけど。
片付けは早々に終わらせて、赤い西陽を横目に前回居た場所から探してみるとすぐ見つかった。
でも、一人じゃなかった。
先生は背を向けて俯いていて、よく見ると奥にもう一人いる。スカートを履いているから女子生徒だ。その手は先生の背中に回されていた。
「……先生……」
オレの声に女の子が驚いて先生から離れると、誤魔化す素振りはせずに笑った。
「なんだぁー、天四か。邪魔したなぁ〜も〜」
「あ……あはは、ごめんね……っ」
なんとか表情を作って返事ができた。彼女は 「またね、先生」と囁いてオレの横をすり抜けて行く。
その間、先生と目が合っていた。
静けさが増すと側まで来た。
「制服に戻ったんだな」
「……何してたの」
何を言うかと思えば、何も無かったように話しかけられて苛立ちが沸いた。
顔を上げられない。
「……すまない」
「だから……っ、何してたんだよっ」
何を謝ってるの。
ああ、そうか、オレ男だもんな。やっぱり女の子の方が良いよね。
好きとか言ってくれたけど、オレを慰めてくれただけかな。
「航……」
「学校でっ、名前で呼ぶなッ!」
気づけば奥歯を噛み締めていて、涙があふれてしまっていた。叫んだ声がいやに響き渡ってハッとして自分を抑えた。
「………オレのこと……、好きじゃなくなった……?」
「それは違う」
「じゃあ何で……あんな事したのさ……っ!」
顔を見れない。
先生は今どんな顔してるの。
肩に優しく置かれた手は、オレと同じように震えている気がした。
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