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夏道-10 文化祭 二日目

 依が好きだ。  多分、初めて名前を呼ばれた時から。  でもこの気持ちが恋だとは、微塵も、夢にも思った事がなかった。  言うなら「友愛」だと。  段々と気持ちが強くなって、俺は遂に自覚したらしい。  依の方からしてくる事がすごく嬉しかった。  祭りの時に手を繋いでくれたのも、昨日抱き締めてきたのも。あれは怒ってたけど、それでも嬉しくてもっとして欲しくなって、俺からもしたくなった。  決定的な証として依が飛び出して行ったあと俯いたら、俺の息子が起きているのを見てしまった。凄く分かりやすい機能だな、これ。  日頃運動ばかりしているから、この類を考えた事はほとんど無い。朝の生理現象も適当に処理してるし。誠に野球馬鹿と言われる所以の一つでもある。コイツの所為で後を追えなかった。  真剣に考え始めると、更に追いづらくなった。  今まで依にしてきた事が本気の恋人のソレのような気がしてきて。  アイツのメイド姿をもっと見たいし一緒に文化祭を楽しみたいけど、顔を見たら俺はまた何処かに閉じ込めてしまいそうな気がした。  嫌われたくはない。  適当に歩き回って時間を潰していると、やっと陽が沈んできた。  照りつく暑さは無くなって、熱を発していた屋台達も終いにかかり始めている。  アイツも店やってるから、会わないようにするのは簡単だった。  でも、思いと矛盾させた行動に静かに苛立っていた。  会いたい。  そう思った時、無防備な背中を急に引っ張られた。力は弱いから持っていかれずよろけもしないけど。  振り返ると、息切れしている依が俺のシャツを強く掴んでいた。  依だ。  思わず見惚れて、虚ろな反応をしてしまう。  依は怒っている。いや、まだ怒っているのか。探してたのに一向に見つけられなかったらしく更に不機嫌になっている。  謝ったものの、避けてるのかという問いには答えられなかった。実際避けてしまっていたから。  いざ目の前にすると、自分の気持ちを再確認できた。 「……依」 「……なに」 「抱き締めていい?」  俯いて前髪で見えなかった顔が上がる。目を見開かせて驚かれた。赤面して薄口をわなわなと震わせて。  可愛いな。  片腕を前に出して返事を伺うと、後ろに退こうとはしなかった。肩に触れて首筋へ撫で上げて、手の平で頬を包む。  顔を赤くしたまま俯き加減にぎゅっと目を瞑って肩を震わせている。  待っても何も言わないから、もう片方の腕を腰に回して引き寄せた。  ここは校舎裏で木の陰だ。さっきまで人通りはあったものの、片付けに入っているからひと気は無くなっている。邪魔はされないだろう。  俺の裾を掴んで頑張って声を抑えながら、顔を隠すようにして頭を胸元に押し当ててくる。  抱き締めたまま首と腰以外も、耳や、背筋、脇腹、指の間、知っている弱い所を上から順に指で弄る。一番弱い腰回りをしつこいくらい愛でるように撫でれば熱を帯びてビクビク反応する。堪えきれなかった吐息が漏れるのを聞いて思わず小さく笑った。  依が可愛くてたまらない。  腕の中から出ようという素振りもなくて顔が緩む。  今更自覚するとか。好きなのは当たり前だろう。  俺のモノなんだから。

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