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依-28 文化祭 後夜祭

 ――「避けてるのか……? 俺のこと」  ――「……俺を探してたのか?」  質問を質問で返されて腑に落ちない。やはりこいつは昨日からおかしい。  そう疑っていたのに、性懲りも無くまたイタズラをしてきた。今までで一番しつこく長い間触られた。  離れることはできなかった。  避けられているかもしれない不安でいっぱいになっていた。付き合いの関係も自然消滅してまた思うように会えない日々が続くのを想像したら、泣けてくるほど。  触れられて凄く安心した。嬉しかった。もっと、……触ってほしいと思った。  その思惑だけ知られたようにまさぐられて、必死に声を抑える事しか出来なかった。  くすぐったいだけでは無かった。指先まで熱を帯びて、身体の奥から痺れる感覚は苦しいけど嫌ではない。指が、温もりが心地よくて何も考えられなくて、夏道だけを感じた。  力が入らなくなって身を任せてしまうと、動きが止んだ。  離れると同時に俺の手を掴んで歩き出す。  思考もぼやけていて吐息のような声しか出せない。 「ど、どこいくの……」 「それ、そのままじゃマズイだろ」 「は……。…っ!!」  働いていなかった理性が慌てて飛んで帰ってきた。昂ぶって熱を上げる自分の変化に、今気づいた。  何も言えず冷や汗が滝の様に流れていく。  腰が引けながらもなんとか付いて行くと、校舎裏口を入ってすぐの倉庫室まで来た。文化祭で使われた道具が一時仕舞われている場所で鍵が開いている。入ると、夏道は内鍵をかけた。  涙目になっているのを覗き込んで、夏道は目を細めて笑った。 「分かってるよ。そうなったのは俺の所為だろ? 落ち着くまでここに居ようぜ」  俺に背を向けさせ抱き寄せて床に座り込んだ。胡座をかいた足の中に俺の尻が挟まってしまう。数秒何が起きたか理解出来なかったが、慌てて立ち上がろうとして暴れた。 「はっ!? ちょっ、離してよ……っ!」 「大声出すなよ。端でも校舎内だから誰かに聞こえるぞ」 「……っ」  動揺を隠せない事がもう一つ。  腰に当たるもう一つの熱があった。夏道のも反応している。  困惑したままの顔を捻って向けると目が合った。こいつは平気そうにしている。  回された腕の力が強くて、逃げられる希望は微塵も感じられない。 「暴れんなよ。それとも手でしてやる方がいいか?」 「勘弁して……」 「ハハッ、じゃあ、鎮まるまでジッとしてろよ」  窓は無く薄暗い。ドアガラスから漏れる橙色の明かりが足元にかかっている。  遠くで話し声や足音が聞こえた。片付けの最中だから、俺達はサボっている事になる。  背中に夏道の熱を感じる。腹に巻きついている腕は少し緩んで、頭を俺の肩に埋めている。硬めの髪の毛が首に触れてこそばゆい。  まだこの状況を理解できない。  俺が反応してしまった理由ははっきりしている。でもこいつのは、どうしてそうなった。運動でもしてたのか……? 「お前さ、俺と一緒に寝てた時、当たってなかったか?」 「………まぁ」 「ハハ、やっぱりか。……お前のもさ、俺が擽ぐるとそうなるの時々見たことあるんだよ。それ含めて反応面白がってさ」  口を固く結んでも微かに震えてしまう。  凄いカミングアウトをされた気がする。俺の下半身は前からバレてたのか……。

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