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夏道-11 文化祭 後夜祭
「寝るんかい……」
弛緩して身を委ねきって眠る顔を覗き込めばすごく安らかな顔をしている。可愛いな、クソ……。
最初は抱き締めるだけで何もするつもりは無かった。これは本当だ。
でも、思いを自覚した後でこの反応と体勢になってみると鎮まるどころか余計熱くなって、想像以上にヤバいと思った。自分にも性欲というものはしっかりあったらしい。
あまりにも無防備なコイツを見て、我慢出来ずに手を出そうとしてしまった。
どうすればいいのかは分からないが、キスは……したくなった。
寝たのには驚いたが、おかげで正気に戻れた。
強行していたら確実に嫌われていた。少し前にも同じ事思ったな……、危ねぇ。
垂れた身体を抱き寄せて、その前髪を耳に掛けると長い睫毛がピクリと動いて顔がこっちに傾いた。
唇は弾力ある柔らかさで自分のとは違って乾燥も無く艶がある。小さく整ったその形に沿って親指でなぞる。
「出来そうなんだよな……」
でも寝込み襲うのはなぁ。コイツの反応見たいし。
俺が今までアブノーマルな戯れをしてた事も自覚した。
と言ってもやめる気は無い。だってコイツは怒りはするけど引いたり軽蔑とかはしない。昔からしてるから許容範囲が馬鹿に広くなっているだけかも知れないが。さっきなんか抵抗もしないでされるがままだった。
「なぁ、どこまでなら許される……?」
トイレに行ったあと依の教室にも向かって鞄を回収した。グラウンドの賑やかな明かりは、殆どの教室が暗くなっている校舎内にも届いて、薄明かりを頼りに歩いた。夜の学校は非現実的でどこか不気味な雰囲気がある。大体の人が外に出ていて、靴音だけが廊下に響いた。
「あら、夏道君! まぁ〜ごめんなさいね、送ってくれて」
「こんばんは」
依をおぶって家に届けた。出て来たおばさんが俺の背中にいる依を覗き込んでクスクスと笑う。
「よく眠ってるわね〜、昨日はまともに寝てなかったから」
「そうなんすか」
「遅くまで勉強していたの。ほらこの子、悩み事があると勉強にのめり込むでしょう? 悩みは夏道君の事ばかりだけれど」
「え……」
俺を見てさっきと同じ笑みを浮かべると、「どうぞ入って」と言いながら迎え入れた。
「喧嘩でもしてたの? そういう年頃だものね。仲直り出来たみたいで良かったわ〜」
喧嘩、してないんだけど。
依の部屋まで行ってベッドに寝かせた。
「服は、起きたら自分で着替えるでしょう。下で洗い物してるから、帰る時は言ってね〜」
「はい」
ドアが閉まると二人きりになる。依は無意識に居心地の良さを感じたのか寝返りをうってシーツを掴んでいた。ベッドの側に胡座をかいて、真正面から寝顔を眺める。
コイツが、悩みがあると勉強にのめり込むとか、知らなかった。
いつも澄まし顔でいるから悩む事があるとは意外だ。しかも俺の事で……。
日頃の行いか。
言わないだけで、やっぱり嫌がってたのか。
……まぁ、そうだよな。
逃げられない様に力入れて強引にしてるし。自分のモノだと思ってヤキモチも嫉妬もして、部屋に連れ込んだり閉じ込めたりして……。
不意に過去の記憶が浮かんだ。
……違う。
あの人とは違う。
俺は、依の嫌がる事はしない。
顔が歪むのを隠して、震える手で依の頭を撫でた。
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