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誠志郎-8 文化祭 後夜祭
後夜祭と言えばファイヤーストームが思い浮かぶが、しないらしい。危険なのは分かるけど、どうせなら豪快に夜空へ燃え上がる光景は直に見てみたかった。
発光ダイオードのイルミネーションで灯されたグラウンドへ、各々片付けを終えたみんなが集まってきた。中央の円状に空いたスペースへ、ダンスを披露する人達が順に出て行く。
俺たちは劇の衣装を着てのフォークダンスで、曲はオクラホマ・ミクサー。普通に制服着て踊るよりはマシだけど、恥ずかしいことに変わりない。流行りの曲を聴きながら隅で待機していた。
一通り見渡してもアイツを見つけられなかった。
まだ校舎内に居るんだろうか。恋人と二人きりで楽しんでいるんだろうか。
つまらない態度を隠さずにいると、ポンと肩を叩かれた。
大護が親指をスペースへ向けて合図する。
曲に合わせて特に何も考えずに踊っていた。
もう少し周りを見て今を楽しんだ方がいいだろうか。
頭の中はアイツの事ばかりだ。
僅かな時間でも一緒に遊べたのは楽しかった。
文化祭が終われば部活に集中できる。また一緒に野球に明け暮れることができる。合宿だってある。泊まりで一緒に……、絶対楽しいだろう。
次の相手に手を差し出すと、やけに太くて硬い指だった。その手の持主の顔を見て驚く。
「はっ? なんでお前なんだよ」
「男女偶数じゃないから女側になった」
「いや、だからってずっと男と踊ってたのかよ」
「めっちゃ笑われた」
「だろうな」
曲はもう終盤で、今更気づいた。そんな愉快な事が起きてたのか。
周りを伺うと皆楽しげに笑っていて、大護はチラチラと見られて指を刺されていた。その雰囲気に一気に飲まれて、俺も笑う。
文化祭が終わった。
余韻が残るなか解散して、制服に着替えて校舎を後にした。
「あー、笑った。お前ずっとその顔でやってたから、笑い堪えらんなかったわ」
「楽しかった?」
「あぁ、ウケた。嫌なら断ればよかったのにさ」
「別に。誠が笑ったから、いい」
口がへの字に曲がってしまい、そろりと反対側を向く。
俺が意味深に捉えてしまっただけかも知らんが。その言い回しは、……何となくむず痒い。
俺のことを好きなのは前から知っていた。でもいざ告げられてしまうと、逆にこっちが意識してしまうような……。
なんでコイツは平気な顔してるんだ。
俺もアイツの前では平然を装ってるけど、お前はなんか、素のままというか……。
「なぁ、大護」
前しか見てなかった目がこっちを向いた。
静かで呆けたツラなのに、目の奥からは射抜かれそうな鋭さを感じた。目を合わせると、コイツとの距離もいきなり近く感じて変に強張ってしまう。
「なに」
「……いや。何でもない……」
耐えきれず目線を逃がして、何も言えなかった。大護はまた前を向いて、変わらず足並みをそろえて歩く。
どうして、ずっと冷静な態度で居られるのか。
コイツの考えてることは分からない。
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