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夏道-12 目に映る人

 日の沈むのが早くなった。十七時過ぎ頃でも空は暗くなり始めていて、家のドアを開けると中は真っ暗だった。カーテンを閉めて電気を付ける。  母さんは、めっきり夜勤が多くなった。  俺が部屋にいる時に、帰って来たり出かけたり居間で過ごしている気配を感じるくらいで、たまにばったり鉢合わせしてしまうと体を強張らせて硬い笑顔を向けられる。  俺はあの人を覚えていない。  でも俺はあの人に似ているらしい。ふとした言動や仕草とか、怒り方なんか特に。  幼い頃から、俺が大なり小なり問題を起こした時、母さんは相手ではなく俺に謝ってきた。俺の姿を見るなり酷く怯えて、膝を落として抱き付いて何度も謝っていた。 「ごめんなさい…っごめんなさい…っ、許してちょうだい……っ」  母さんの目は俺に向いてたけど、俺を見ている訳ではなかった。自分と重なるあの人にずっと怯え続けていた。  姉貴はよく覚えていて、こっそり話してくれた。暴力を振るわれ続けて、第三者を介してやっとの事で離れたらしい。姉貴も酷い目に遭っていた様だ。 「ごめんね、夏道……、ごめんね………」  正気に戻ると小さく謝って、頭を撫でてくれた。そんな姿をずっと見ていて、可哀想だと思っていた。  成長すると更に似てきたのか、俺を見るその瞳は一層恐怖の色を濃くして逸らすようになった。  あの人に似てしまって申し訳ない。  でも、俺はその人とは違うから。酷いことなんかしないから。  そのままの俺を見てほしかった。  依は、初めから俺をちゃんと見てくれた。その真っ直ぐさに最初は戸惑ってしまったけど、だんだんと嬉しくなって、安心できて、気づけば掛け替えのない存在になっていた。  だから、絶対嫌われたくない。  本当は……、母さんにも。

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