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夏道-14 葛藤と奮闘
――「別に……、お前になら何されてもいいのに……」
だとよ。
「襲うぞクソがッ!!!」
「投球に欲求不満を込めるなバカヤロー」
誠が呆れた声を上げて、ミットに収まったボールを投げ返してくる。
「集中しろよ。春の選抜も行くんだろ?」
「おう……」
深呼吸して、気持ちを落ち着かせると思考を切り替えた。
大会の時期も以外でも休まる時期は無いと思っている。もっと練習して、勝ち続けるために。
分かってる。
俺の一番の課題はメンタル面と言われた。
それも自覚してる。
試合中は何の問題もないんだ。ただ日頃の練習とかでは、どうにも拭えないことが多い。今みたいに声に出さなくても顔や状態に出たりしてよく怒られる。
切り替えろ。集中しろ。
誠に合図して、もう一度ボールを構えた。
日が暮れかけている。木の葉が色づいてきて、夕陽と相まった景色は綺麗だと思った。暑さはまだあるけど、この時間帯になってしまえば乾いた冷たい風が吹いてきて、すっかり秋になったんだと、こればかりは俺も情緒というものを感じる。
後片付けを終えて、グラウンドへ降りる階段の端で水分補給をしている時、またさっきの事を思い出した。
別に、楽しそうにしてるのはいいんだけどさ。
アイツが俺以外の誰かに楽しそうな顔を向けるのを見たら、すごく嫌なものが湧いて、怒りに変わると一気に溢れた。
「ヤキモチ」と言われて、あぁそれかと、自覚すると恥ずかしくなったけど。
アイツに対して我慢とかしたこと無かったから、割と必死でこらえて頑張ってるんだ。
それなのに、あの発言ときたら。
ズルいだろあれは。
どんだけ俺に気許してんの。
身体中火照らせるまで撫で潰すぞ、それもいいのか。ダメだろ。
我慢し始めると依の方から来てくれるようになった気がして嬉しいけど、その分耐えなきゃいけなくなった。
でもずっとは難しい。俺の性格上すぐに溜まって爆発させてしまうし。現に物に当たってしまったし。
どうしたもんかな。
「いやぁー、まさかまだ何もしてなかったとは。逆に男として心配になるね」
「やり方とか……、知らねぇし」
「その辺はインターネットさんに聞けよ」
さっき叫んだことについて聞かれて、依との現状を少し話した。誠はやはりこの手の話によく食い付いて、機嫌も良さそうに笑っている。大護はスポーツドリンクを片手によそ見しているから、聞いてるかは分からないが。
「知ったら、絶対襲う自信ある……」
「あー、そっち」
項垂れてボヤくのを、横目で見た誠は呆れて眉を寄せた。そっちって何だよ。
「まぁ、そんだけだ。集中出来なくて悪かったな、もっと気引き締めなきゃな」
「……ちゃんと話した方がいいんじゃないの? 今までのお前見てる限り、我慢するのも結局支障出てるみたいだしさ」
「あぁ……、そうだな。そうする。聞いてくれてありがとな」
「べつに、聞いたの俺だし……」
薄暗くなった家路へ向かおうとした時、誠が走り越して俺らの方に笑顔を振り向かせた。
「なぁ! バッティングセンター行かね?」
「いいな」
土と汗でまみれたユニホームから着替えても、汗だくになって制服を濡らした。飛んでくる球がバットに当たる音は何度聞いても飽きなくて、心地良かった。
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