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夏道-15 滲み湧く
依の様子が気になって家まで来てしまった。晩飯どきも過ぎて家族団らん中だろう時間帯に邪魔するのは気が引けて、窓から漏れる灯りを見上げるしかできないけど。
「……夏道君」
「わっ」
暗いなか気配も無かった隣の男の人に気づいて、声を出して驚いた。じっと見つめてくる無表情さは大護を思い出すけど、纏 う雰囲気と口元は依に似ている。いや、依がこの人に似てるんだ。父親だから。
門柱にいて邪魔だった自分の体を退かして道を開ける。
「こんばんは」
「こんばんは。帰るところだったのか?」
「いや、そうじゃないっすけど……」
聞くと歩みを進めて玄関のドアを開けて、招き入れるように目を向けてきた。
ほんの少し小首を傾げてこちらを伺う姿に、何となく、アイツが大人になったらこんな感じになるんだろうかとよぎって見つめてしまう。
突っ立ったままでいると、家の奥からおばさんが顔を出した。
「あら、おかえりなさい」
微笑に声をかけられたおじさんは小さく一度の返事しかしないけど、おばさんを見る目は柔らかくて優しげだ。
仲の良い夫婦の姿を見て心の奥底で何かがじわりと滲んだのは、気づかないフリをした。
「夏道君来てたの? そんな所にいて、早くいらっしゃいよ」
「でも」
「風が冷たいから早く入って? 閉めちゃうわよ?」
「あ、はい、お邪魔します……」
依と同じ顔で笑ってるけど、少しだけ威圧も感じて思わず言う通りにした。
「帰ってからずっと部屋で勉強してるの。貴方が突然来たと知れば喜ぶわね」
その言葉に顔を向けると、口元を押さえてクスクスと笑っている。
「依は貴方のこと大好きだから」
穏やかでもはっきりと言われて、普通に照れてしまって目を逸らす。
今は、素直に受け止められない。
依の部屋のドアをノックした。返事がないから静かに開けて覗くと、ちゃんと居る。テーブルに勉強道具を広げているが項垂れていて、手から落ちたと思われるペンは床に転がっていた。
近寄って呼んでも、睫毛も動かない。
「依」
隣に胡座をかき顔を近づけてもう一度呼ぶと、やっと瞼がピクリとしてゆっくりと開いた。焦点の合わない目がこっちを向いて、ちゃんと起きたか定かではないが声をかける。
「お前さ、ずっと勉強してるって聞いたけど、またなんか悩み……」
不意に依の両手が伸びてきて、首に回された。
顔も近づいてきて、頬同士をこすらせて首元に埋まってくる。
「なつみ……」
耳元で呼ばれて心臓が大きく跳ねた。腕に縛られて理解が追いつかない状況に体は固まる。
苦しそうな言い方で縋り付いてくるが、体を完全に任されてしまった俺も別の意味で苦しい。
少し前なら素直に抱きしめ返していたところを、手は床についたまま、ただ唸るばかりだ。
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