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夏道-16 耐えたほう

「なつみ……、なつみ………」  尚そう呟く依の腕をほどいてちゃんと座らせてから覗くと、やはり半分寝ている状態だった。  眉尻を下げて目は潤んでいる。再び抱きつく素振りを見せたのでその両腕を止めた。これ以上はもたない。 「おい依、ちゃんと起きろ」 「……ぎゅってして……」 「っ……」  夢と混同してるのか、俯いて溜まっていた涙をポロポロ落としながら言った。掴まれて動かせない腕を開いて体を寄せて、胸元に当たると濡れた頬をこすってくる。 「して……」  ……俺は、我慢したぞ。  寝ぼけてても割とはっきり強請ってくるコイツが悪い。理性は隅に投げやる。  片腕を放して顎をすくって上げてみても、その表情はぼうっとしてされるがまま。体を持ち上げて胡座をかく自分の脚に跨がせると、素直に腕を回してきた。顔をうずめてグズっている。  自分もその背中に手を回して、耳裏を指先で撫でながら首筋に鼻をこする。こうするのは二週間ぶりくらいか、我慢もした分余計抑えが効かなくなってくる。 「……依。起きねぇと全部するぞ」  思い付くこと全部したくなって、最終警告として低い声で呼び掛ける。骨盤の辺りをグッと掴んで手を這わせた。 「んぁ…っ」  突然耳元で聞いた声に反射的に手を離した。跳ねた体は小刻みに震えながらまたくっ付いてくる。  聞いた事のある吐息みたいな声に似てるが色っぽいものだった。体が熱すぎて苦しいのに、追い打ちをかけるようなその刺激は強すぎて目が見開いて硬直する。  動けずにいると、依が先に動いて顔を上げてきた。間近で顔を合わせてぼんやりと見つめてくる。  段々と目が覚めてきたらしい。みるみるうちに表情が強張って、眉間にシワがよって口をわなわなと震わせると、思い切り両手を突っ張らせて上半身だけ後ろへ逃げた。 「あっ待て、頭」  勢いで床に倒れるのを背中に手を差し入れて防ぎ、コイツも咄嗟にしがみついてきて強打は免れた。  床に寝てしまい足の間に俺が入って被さる状態に、しまいには声を無くしている。眺めてると可笑しく見えて逆に冷静になってきた。 「起きたか?」 「なっなんでいんの……っ!」 「あぁ、まぁ、ちょっと顔見に」 「どいてよ!」 「お前なぁ……」  赤面する顔だけでも隠そうと両腕を被ったので、無防備になった胴体に顔を落として呆れ果てた。しまったという風に俺の肩を掴んで退かそうとしてくるのを、背中に回した手に力を込めて抵抗する。 「なんの夢見てたんだよ。泣いてたぞ」 「っ……。……分からない……、忘れた」 「ふぅん……」  急に静かになったから本当に忘れたのか疑問が湧いたけど、とりあえずこのままで居たい。疲れた。 「……どいて」 「疲れたからやだ」 「話……ちゃんとしたい、から」  ちら、と見ると、顔を赤らめつつも真面目な顔をしている。よそ向いてるけど。  長いため息を吐いてからゆっくり起きて離れてやると、二、三度後ろにずって行かれた。

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