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依-32 特別な関係
「素直とは、飾り気がなくありのままで、性質、態度などが穏やかでひねくれてないさま。従順など」
俺の机に両肘をついた航は、携帯の画面を見ながら読み上げた。
「……いや、意味は知ってるんだけど」
放課後の誰も居ない教室でふと思っていた事を呟くと、先に帰りかけたこいつが反応した。
「いっくんて好きな気持ちだけは素直で真っ直ぐだよね〜。それを口に出せればいいと思うんだけども」
「航の方はどうなの」
この前の不穏な様子が嘘の様だ。コロコロと変わる表情に惑わされないように平然とした態度で言い返す。すると、一度瞬きをして目線を横にずらして、何かを思い出したのか破顔した。……うん、分かりやすいな。もう大丈夫そうだ。
「小さい頃は素直だったんでしょ〜〜?」
腑抜けた顔のまま話を続けようとするのを見ていると何故か笑みが移りそうになり、小さく咳払いした。
「……まぁ、幼かったし」
あの頃は、男同士だとかどういう意味の「好き」なのかも考えずに、ひたすらに夏道を想っていた。本当の気持ちを自覚して常識というものを知ってしまうと、どうしてこう難しくなってしまうのか。純粋でいられた幼い俺を時々羨ましく思う。
「別に、そんな難しく考えなくていいんじゃない? 幼馴染でずっと仲が良いんだからさっ」
その言葉に目が丸くなる。
そうとも言う関係だったな、と目から鱗が落ちた。
「幼馴染か……、なるほど」
「え、なんだと思ってたの」
「小さい頃から一緒にいる人……」
「まんまだね……?」
改めて背もたれに寄りかかる。
「……友達以上、恋人未満というか、親友に近いけどそれも正しくは当てはまらなくて、……特別なんだ。他の奴にされたら嫌だったりおかしいと思う事でも、夏道にされると……受け入れてしまったり。夏道も同じ気持ちではないにしろ俺を特別視してるし……」
関係をよくよく分析してみると難しい。客観的には幼馴染みというものだろうけど、互いにしていることがその範囲を超えている気がする。
「なるほど」
「特別な関係だから、それが壊れてしまうのがすごく……怖いんだ。俺は……、出来るならずっと……、あいつの……」
正直に言葉に出しすぎて段々と恥ずかしくなってきて、最後まで言わずに顔を隠す。航は茶化すような素振りは少しもせず無垢な笑顔を向けた。
「いっくんは夏道君を愛してるんだね」
「……はっきり言われるのは困る……」
否定は……、しないけど。
もどかしいものが重なっても、夏道への想いはずっと変わっていない。
「特別な関係といえば、オレといっくんもだよね〜〜っ」
「そうかな」
「なんでェ!」
少し吹き出してしまって口を押さえた。次々と大げさに表情を変えるこいつは面白い。
ドンッ!!
静かだった教室に突然響いて二人とも体が跳ねた。同時にドアの方を見ると夏道が居て、壁に拳をついてこちらを睨んでいた。
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