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誠志郎-10 隣にいる奴
まだ静かな住宅街では、走る息づかいやアスファルトを蹴る音がよく聞こえる。追い風が吹いて枯葉が舞うのを流し目に見ながら感慨に耽っていた。
いつからか曖昧に思うほど、気づけば隣には大護がいた。
嫌ではないってだけで、特に何も言わない。
ある日コイツの気持ちを知ってしまった後でも何事も無かったから、俺は知らないフリをしてきた。
けど文化祭の日、ついにはっきりと告白された。
俺が断ったつもりでも、コイツは微笑って受け入れていた。断られるのを承知で言ったんだろう。
辛く……ないのかな。
俺は嫌だぞ。
好きな奴に、好きな人の話されたり、その相手と仲良さげにしているのを見たり、自分といる時も相手のこと思ってたりされたら。嫌だろ。
「……俺、お前と一緒にいていいの?」
足並みをみだして速度を落としながら、ずっと思っていたことを口に出した。
気持ちを知っていながら付き合う気も無いのに、必要以上に一緒にいるのは傷つけてしまうんじゃないか、お前に失礼なんじゃないかと、思っていた。
立ち止まってしまう俺のさきで大護も足を止めた。静かに振り向いて見つめてくる。
ゴロウが焦れったそうに足元をうろついて催促してくるのは、片手で撫であやして前の奴を見据えた。
「うん」
「付き合う気無いんだぞ、俺」
「うん」
「……叶えられないんだよ」
淡々と答えるコイツを理解できなくて、顔をゆがめてうつむく。
報われない片思いを知っている。その想いを向けられて、応えられずに罪悪感を抱いてしまう。
「深く考えなくていいよ」
かけられた声に顔を上げると、いつの間にか目の前に立たれていたのに驚いて一歩退いた。
「一緒にいさせてよ」
大護の変化は、よく見ないと分からない。試合では有利に働き、働かないその表情筋は、何故だか自分には分かってしまう。
コイツは今、笑っている。
告白のときはかなり表情を出したんだなと、思考の端で感心した。
「……分かった」
自分を見てほしいけど、それは叶わない。それでも一緒にいたくて、側にいる気持ちも分かるし、俺もそうしているから拒否はできなかった。
どうしようもねぇな、俺ら。
「今日も一緒に走ってくれてありがとなー、楽しかったぞ」
ランニングを終えてゴロウを撫でつつ別れの挨拶をしていると、黙って見ていた大護がおもむろに隣へしゃがみこんだ。心なしか頭を近づけてくる。
ついそっちにも伸ばそうとした手を、ハッとして食いとめた。
「……いや、撫でねぇよ」
「……ケチ」
無表情は変えずそっぽ向かれた。
不意打ちの戸惑いをごまかすようにゴロウを抱きしめると、その様子をじっと見つめられる。
普段そんなことはしないので内心驚いた。
ゴロウと並んだ姿にキュンとしてしまったのは不覚だ……。コイツが羨ましいとか思ってるんじゃないよな?
俺にとって大護は、自然体で一緒にいられる友達だ。部活仲間としても心強い選手で、夏道と同じくプロを目指している。それに関しては心から応援している。
確かに言えるのは、「好きではない」という事だけ。
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